「来年の単価は3割カットにする。嫌だったら他に発注する」…なぜ下請けメーカーはこうした無理難題を突きつけられるのか? なぜ“下請けイジメ”はなくならないのか? その根本原因を経済アナリストの森永卓郎氏が解説。新刊『投資依存症』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

なぜ企業の“下請けイジメ”はなくならいか? ©文藝春秋

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強者は弱者から「収奪」する

 お金がお金を生み出すプロセスについて、多くの人の理解は、次のようなものだろう。

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 株式投資で集めたお金で、企業が機械設備を買ったり、工場を建設したりする。企業はそうした事業活動を行なうことで、利益が生まれ、その一部は配当金として株主に還元される。だから、投資したら配当の分だけお金は増えていく。そう考えられるのだ。

 実際、経済理論では、株価の理論価格は、現在から将来にかけて受け取ることのできる配当金を合計したもの(厳密に言うと、それを金利で割り引いた現在価値を合計したもの)として定義されている。

 しかし、経済理論は同時に、完全競争のもとでは、企業の利益は最終的に「ゼロ」になるとしている。健全な価格競争が行なわれれば、企業は販路を確保するために価格を引き下げざるをえない。そのために企業は利益を削っていき、最終的に利益はゼロにならざるをえないというのだ。

 私も、全体としてはそうだと思う。しかし、全体の利益がゼロになっても、一部の企業だけが利益を出すことは可能だ。

 それは、強者の企業が、弱者の企業から収奪をすることだ。具体例を挙げよう。

 自動車の完成車メーカーのところに下請けの部品メーカーが翌年納入分の価格交渉にやってくる。すると完成車メーカーの調達担当者はこう言い放つ。

「来年の単価は3割カットにする。嫌だったら他に発注する」

 設備も従業員も抱えている下請け企業は、要請を吞まざるをえない。

 厳密に言えば、こうした完成車メーカーの要請は法律違反なのだが、これまでさんざん行なわれてきた商慣行でもある。

 結果的に、完成車メーカーには利益が生まれ、下請け企業には赤字が生まれる。トータルの利益がゼロであっても、勝ち組は負け組から「収奪」をすることで利益を生み出せるのだ。

 もう40年以上前の話になるが、私は1982年に当時勤務していた日本専売公社から日本経済新聞社の外郭団体である日本経済研究センターに出向することになった。

 私に与えられたテーマの1つが「所得分配」だった。私はセンターの図書室にこもって、「賃金構造基本統計調査」(通称「賃金センサス」)の分析にとりかかった。

 そこで私は衝撃的な現実に直面することになった。当初は、大企業と中小企業間の賃金格差を調べていったのだが、日本経済が低成長に移行した1975年以降、格差は一貫して拡大していたのだ。つまり、大企業の中小企業いじめは、その当時から始まっていたことになる。

 ところが、私の目に飛び込んできた格差はそれだけではなかった。