ギャンブル依存症は、けっして特殊な人だけがかかる病気ではない。私はいま金融市場に参加する多くの人が「投資依存症」という名のギャンブル依存症になっていると考えている。
投資の本質はギャンブルと同じ
しかも依存症にかかる人は確実に増えている。2024年1月に始まった新たな少額投資非課税制度(新NISA)をきっかけに、投資を始める個人の裾野が広がっているのだ。
たとえば、ゼロ金利解除をきっかけとした現在の日銀の金融引き締め姿勢は、理論的に言えば、株価の下落と円高をもたらす。中長期的にはそうなるだろう。
ところが、「快楽」に溺れた人たちはそうした変化を意に介さない。その結果、株価はさらに上がり、為替もさらに円安に向かった。
ただ、順風は無限には続かない。問題は、相場が値下がりトレンドに転じたときだ。
冷静に判断できる人は、そこで損切りをして手仕舞いする。ところが、投資依存症の人は、損失を取り返そうとさらなる資金をつぎ込んでしまう。「ナンピン買い」と呼ばれる行動だ。
そうなると、資産の一部だけで安全に運用してきた人も、やがて全財産をつぎ込んで破産者になってしまう。過去のバブル崩壊で繰り返されてきた事態だ。
つまり、本当の危機は、下げ相場に転じたときに起きるのだ。
バブル崩壊の最後のババを引くのは、投資依存症の人たちになる。余計なことをしなければ、安らかな老後が待っているのに、なまじ快楽の味を覚えると、破滅への道を歩んでしまうのだ。
残念ながら、投資依存症には治療薬がない。唯一の救出方法は、投資を断ち、依存症でひどい目に遭った人との丁寧なコミュニケーションを続けることだ。
私はそれが本当の金融教育だと思うのだが、政府は「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと、逆に投資を煽っている。
「投資とギャンブルは違うものだ」と考えている人は多いだろう。
しかし、投資の本質はギャンブル以外の何ものでもない。
老後の生活資金を、NISAを使って投資信託で運用しようとしている人は、老後の生活を賭けて競馬や競輪をやっているのと同じだ。投資の世界も競馬や競輪と同じで、結局はゼロサムゲームとなる。お金が自動的に増えていくということはありえないからだ。