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響子 京都から呉服屋さんが、年に3、4回来ていました。四畳半の和室に反物を並べて、呉服屋さんとのやりとりそのものを楽しんでましたね。自分には年齢的に合わないけれど気に入った反物があると私用に買うんです。でも私はいらんのですよ。『なんとなく、クリスタル』の世代なんですから。

娘の響子さんと夫の田畑麦彦さんと ©文藝春秋

桃子 着物じゃないね(笑)。

響子 だから着ないの。すると「せっかく買ったのに」って怒りだす。クレージュの弁当箱型のバッグが流行っていて、欲しかったけどそういうものは絶対買ってくれない。着物は何百万もするのを買うのに。今回の取材は母のファッションがテーマと聞いて、これだけは言いたいと(笑)。

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忘れられない「着物の匂い」の思い出

ーー雑誌『美しいキモノ』(1992年夏号)は「私のきものワードローブ―夏の抽斗―」というタイトルで、佐藤さんと愛用の着物を紹介している。着物姿の佐藤さんの写真が5点、他に着物と帯などの写真が10点近く。「以前は原稿を書くときもきものでした」と語っていた。

 ©文藝春秋

響子 70歳くらいまでは、座卓で書いていました。冬は着物を何枚も重ねて着ていたから、脱いでいくとはだけた胸元から母の匂いが立ちのぼってくるんです。小さい頃の冬のお風呂の思い出です。

桃子 春と秋には、虫干しするんです。応接間から庭に紐を3本くらい渡して。ちょうど自分の部屋の下なんで、着物の匂いが上がってきて「虫干ししている」ってわかります。