およそ千年前に生まれた『源氏物語』。作者のまひろ(紫式部)と藤原道長のソウルメイトとしての関係、そして平安文化や権力闘争を描いた大河ドラマが大石静さんの『光る君へ』だ。同作の執筆、そして45年連れ添った夫との別れについて“連ドラの申し子”大石さんが語ったインタビューの一部を『週刊文春WOMAN2024秋号』より抜粋して紹介します。

――大河ドラマ『光る君へ』の第31回で、ついに『源氏物語』が誕生しましたね。まひろ(吉高由里子/紫式部)の中に物語が降りてきた瞬間を「色紙がはらはらと舞い降りてくる」という演出で表現されていたのが印象的でした。

吉高由里子演じるまひろ(紫式部) ©NHK

大石 あれはチーフ演出の中島由貴さんのイメージです。彼女らしさがよく出ていたのではないでしょうか。私が脚本のアイデアを思いつくときは、上から降ってくるというよりも下からポコッ、ポコッと湧いてくる感覚です。

ADVERTISEMENT

 でも、『ふたりっ子』(96〜97年)や『セカンドバージン』(10年)を書いていたときなど、ごくたまに「天から命じられて書かされている」と感じることがあって、そのときは上からパワーをもらっている感じがしました。『光る君へ』は、今のところまだ天から命じられている感じはないですが。
 

大石静さん ©文藝春秋

――自宅で『源氏物語』を書いているまひろの隣で、書き上がった原稿を藤原道長(柄本佑)が柱にもたれて読んでいるシーンは、二人の位置も完璧で美しかったです。

大石 道長が敏腕編集者みたいでした。あのシーンの撮影は吉高さんも柄本さんも、微妙な所を表現しないとならないので、ホントに疲れたと思います。

 物語を生み出すシーンというのは、観念的なものじゃないですか。動きもあまりないし、登場人物も二人だけだし、「視聴者の皆さんが退屈してしまったらどうしよう」と不安でしたが、私も監督も演じた二人も、渾身の力を振り絞ったと思います。私達の想いが視聴者の皆さんに伝わったならうれしいです。
 

©NHK

――まひろが『源氏物語』を「私のために書いている」というセリフにもグッときました。

大石 人生は自分のためにあるものですからね。「ついでに人の役に立てばラッキー」なのだと思います。どんなことでも「己がためが人のため」だということに、意外と気づいてない人が多いんだなと思います。

『源氏物語』は、「紫式部が夫を亡くしたあとの寂しさを埋めるために書いた」という説を唱える研究者も多いのですけど、今回、時代考証を担当されている歴史学者の倉本一宏先生は「道長のバックアップなくしては、こんな膨大な物語は書けなかった」とおっしゃいました。当時、紙は究極の贅沢品で、上質な紙を大量に手に入れることは、貧しい下級貴族には絶対に不可能なことでした。高級な紙を大量に提供できるのは道長しか考えられないのです。