平安時代の陰陽道は最先端の科学
――『光る君へ』には、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が予言や雨乞いをしたり、甥の伊周(三浦翔平)が道長を呪詛するシーンなども出てきますね。
大石 これも倉本先生の教えなのですが、平安時代の陰陽道や祈祷って、今の気象予報士に近いというか、当時としては最先端の科学だったそうです。今見ると「占いでしょ」となりますけど、祈祷も病気を治すための科学だと思ってやっていたと思うんです。
とはいえ、私自身も誰かが死ぬ場面を書くときはお線香を焚きますし、邪気を感じたときは粗塩とお酒を入れた湯船に浸かったりするタイプで、不思議な力を持つ人にも何人か会っています。
とくに衝撃的だったのは、20代の頃、タップダンスを習っていた先生。レッスンのあと先生が「大きな火事と飛行機事故がある」と呟いた翌日、赤坂のホテルニュージャパンで大火災があり、その翌日、羽田沖で日航機墜落事故が起きたんです。
40代の頃に会った台湾の占い師もすごかった。霊感を研ぎ澄ますために自ら目を潰しちゃったという人で、先生の前に座った瞬間、カタコトの日本語で「アナタの夫は肺の病気」と言われたんです。その後すぐ夫は肺炎で死にそうになって……。そのときの肺炎は治ったのですが、のちに夫は肺がんで死にました。
2022年の秋、『光る君へ』の脚本の第2回を書いている頃に余命宣告をされました。最初は介護しながら書こうと思ったのですが、死にゆく人の傍ではどうしても書けなくて、仕事がストップしてしまいました。
「夫の命が来年3月まで持つようなら、大河の仕事を辞退してほかの人に託そう。私が一人で最後まで書くなら、そのデッドラインは年内12月までだ」と思っていたら、夫はそれがわかったのか12月に逝きました。私に大河を書かせるために早く逝ったんだと思います。
――大石さんが舞台女優をされていた20代の頃に、8歳上の舞台監督と結婚されたんでしたよね。
大石 はい、甲状腺のがんの手術をしたばかりで病弱だった私と結婚して、「家のことはやらなくていいから、自分の好きな仕事をやりなさい」と、背中を押してくれた夫には恩義があり、「あなたの最期は私が最善のプロデュースで看取る」と以前から言っていたのですが、その約束は果たしました。
夫婦として添い遂げたって感覚を持ちましたね。色々あったけど45年も共に暮らし、相性はよかったように思います。夫婦には、片一方が必ず先に逝くという宿命があります。人生とは苛酷な修行の場だなと、しみじみ思いました。
●藤原道長のお墓を訪ね「この脚本はやるべき仕事なんだ」と感じ、体がヒュッとなったというエピソードや、かつてのオーディションで見た佐々木蔵之介さんの背中、源氏物語のテーマである“密通”についてなど、インタビュー「大石静は“誰がため”に『光る君へ』を書いたのか」の全文は『週刊文春WOMAN2024秋号』でお読みいただけます。
【週刊文春WOMAN 目次】大特集 パートナーは必要?/谷川俊太郎×内田也哉子「母と父の恋文」/『光る君へ』大石静、『虎に翼』吉田恵里香に聞く/稲垣吾郎×朝比奈秋 白熱3時間
2024秋号
2024年9月21日 発売
定価715円(税込)