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“危機の宰相”安倍晋三が辿り着けない「向こう岸」

「美しい国」と、政治家一族の孤独

2018/05/12
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「偉大で強い家系に生まれた弱い人間」

 安倍は岸の娘・洋子と安倍晋太郎の次男として生まれた。「晋三」の名については「父・安倍晋太郎から一文字。次男なのに、『三』なのは、『二』よりも座りがいいからだそうです」と兄である長男が語っている。ちなみにその兄の名は「寛信」、これは父方の祖父・安倍寛と岸信介から一字ずつ取っての名前である(注1)。

 さらに、岸家を途絶えさせまいと、母・洋子が養子に出した弟がいる。現在国会議員の岸信夫だ。「信夫の『信』は岸家につながる名前で、『信は萬事の本たり』。信夫という名前は岸家を継ぐためにつけた名前である」(注1)とのこと。

安倍洋子氏 ©文藝春秋

 岸家の家督となった信夫が政治家になると決めた際、山口県田布施町の岸の実家で、母の洋子が出馬発表をする。これは「岸の後継は岸」との後継者宣言でもあった(注2)。こんな家の事情をかかえた安倍をおもうと、後継者のつもりでいたところ、正統な後継を名乗り出る者が現れたために、自らが王の血を引く者であると謳いだす、そんな宮廷ドラマのような劇を勝手にみてしまう。

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「偉大で強い家系に生まれた弱い人間」。作家・田中慎弥は直接話すなどした印象から、安倍をこのように評した(注3)。弱い人間だから「岸の鎧」を着る。しかしそうしてみたところで、それは「片岸」に過ぎなかったのだ。アベノミクスでは結局、向こう岸までカネがまわらなかったように。

©getty

(注1)安倍寛信・岸信夫「安倍家『血の秘密』を明かそう」文藝春秋 2006年12月号
(注2)松田賢弥『絶頂の一族 プリンス・安倍晋三と六人の「ファミリー」』講談社+α文庫
(注3)田中慎弥「再起した同郷の宰相へ 弱き者汝の名は『安倍晋三』」週刊新潮 2013年1月17日号

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