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一斉に被害者叩きを始めたメディア

提供:アフロ

 だが、この事件が公になった後、世にも奇妙なことが起きた。

 タブロイド紙はワインスタインではなく、グティエレスのスキャンダルを書き立てたのだ。グティエレスがミス・イタリアコンテストに出場した2010年、当時イタリア首相だったシルビオ・ベルルスコーニの開いた「乱交」パーティに参加していたというのだ。

 このパーティで売春婦を買ったとしてベルルスコーニは追及されていたが、タブロイド紙の記事では、グティエレス自身も売春婦で、イタリアで金持ちのパパに囲われていると報じられた。

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 デイリー・メイル紙は、グティエレスはワインスタインを訴えた翌日、ワインスタインの制作したブロードウェイ・ミュージカルの『ファインディング・ネバーランド』を観劇していたと報じた。ゴシップコラムのページ・シックスは、グティエレスが映画への出演を要求したと書いた。

 グティエレスは売春婦などではなく、ベルルスコーニのパーティにも仕事として出席しただけで、いかがわしく感じてすぐに退出し、映画出演もまったく要求していないと訴えた。

 だが、彼女の言葉はあと付けのように小さく取り上げられる以外は、ほぼ表に出なかった。

 来る日も来る日も下着姿かビキニ姿のグティエレスの写真が、タブロイド紙を飾った。それらの写真は、まるで彼女の方が加害者で、女の武器を使ってワインスタインを罠にかけたかのように見せていた。

 しかも驚いたことに、今度はマンハッタン地方検事局が、タブロイド紙と同じ点を問題にし始めた。ベルルスコーニのことや個人的な性的履歴について、グティエレスを尋常でない厳しさで問い詰めた。

 グティエレスと一緒にワインスタインを追い詰めた捜査員たちは、ローナンに語る。

「ワインスタイン側の弁護士かと思うくらいに、検事が彼女をこてんぱんにやり込めていた」

 2015年4月10日。地方検事局が発表したのは、ワインスタインの「不起訴」だった。