「タレントの香取慎吾容疑者が現在奥多摩町の山荘に女子高校生2人を人質にして立てこもっている模様です!」
本来なら『SMAP×SMAP』が始まる時間になぜ、ショッキングな報道番組が始まったのか…? 香取慎吾を“凶悪ストーカー犯罪者”に仕立て上げた「1999年のヤバすぎるTV番組」の正体を、ライターの戸部田誠(てれびのスキマ)氏の新刊『フェイクドキュメンタリーの時代: テレビの愉快犯たち』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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香取慎吾が女子高生2人を人質に
「誠にショッキングな事件です! タレントの香取慎吾容疑者が現在奥多摩町の山荘に女子高校生2人を人質にして立てこもっている模様です! そこで番組の予定を変更いたしましてこの事件の模様をお伝えしたいと思います」
本来では『SMAP×SMAP』(フジテレビ)が始まる時間に「緊急報道番組」が始まった。
現場の中継では、上空を旋回するヘリコプター、山荘を取り囲むたくさんの警官隊、状況をリポートする報道陣の様子が映し出される。
やや興奮気味のリポーターが事件の概要を伝えている。夜8時50分頃、若い女性の声で110番通報があったという。それは以下のような内容だった。
・奥多摩町の山荘に友人と2人で監禁されている。相手の男はタレントの香取慎吾である。
・香取慎吾に迫られ、断るとナイフで脅し監禁状態にされた。
・香取慎吾はかなり興奮している。
実はこの事件の以前から、香取慎吾が面識のあった女子高生「A子」にストーカー行為をしていたと一部報道で伝えられていた。通報をした女性の身元は警察から発表されていないが、テレビ取材班の調べではA子でほぼ間違いがないという。山荘への電話も通じず、捜査官の問いかけにも応じないため、内部の状況はわからない。だが、窓越しには香取慎吾本人と思われる人影は確認されたという――。
もちろんこれは、実際のニュースではない。「緊急報道番組」をリアルに模したフェイクドキュメンタリーだ。
「香取慎吾2000年1月31日」と題され『SMAP×SMAP』特別編として1999年12月13日に放送された。長江は『Dの遺伝子』の後、制作会社「イースト」が制作を担った『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ、1997年~)の立ち上げからディレクターとして参加した。そのイーストにフジテレビから「『アンビリバボー』チームで香取慎吾くんの『スマスマ』特別編ができないか」と打診があった。
当時、SMAPは新進気鋭のクリエイターと組んでたびたび実験的な作品を作っていた。香取慎吾側からは「トガったことをやりたい」という申し出があった。