フェイク・ドキュメンタリー史において、エポックメイキングな作品『放送禁止』(2003年~、フジテレビ)を手掛けた、クリエイターの長江俊和氏。実はその4年前にも見る人を驚かせた「伝説のフェイク・ドキュメンタリー番組」を手掛けている。

 当時、絶大な人気を誇ったSMAPの香取慎吾が“凶悪立てこもり犯”に仕立てた驚きの番組はどんな結末を迎えたのか…? ライターの戸部田誠(てれびのスキマ)氏の新刊『フェイクドキュメンタリーの時代: テレビの愉快犯たち』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

1999年、香取慎吾を凶悪立てこもり犯に仕立て上げた「驚きの番組」はどんなエンディングを迎えたのか? ©getty

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「なんでこうなっちゃったんですかねえ」

「緊急報道番組」のスタジオにはアナウンサーの他、急遽、コメンテーターとしてテリー伊藤や芸能リポーターの前田忠明、そして専門家として元警視庁捜査一課の男性が集まっている。

「なんでこうなっちゃったんですかねえ。先日仕事で一緒になったんですけど、まったくそんな素振りを見せなかった」と山荘にいるのが本当に香取なのかと疑問を呈するテリーに対し、前田は「間違いないと思いますよ。今日収録現場に姿をあらわさないんだから」と返す。

 さらに緊急報道番組では、翌日のワイドショーで放送する予定だったという「A子」に対する独占取材のVTRがあると言い、それを流すことに。

 そのVTRの冒頭には「人を好きになったらどんな手を使ってもものにするまで諦めないですね」という香取のラジオ番組での発言が抜き取って挿入され「香取慎吾を凶悪犯にした!? 本当の理由!」というテロップが躍る。

 発端はインターネット上の掲示板への書き込みだった。それはA子と香取の交際の様子を伝えるもの。翌月には、マンションの出口で2人をとらえた2ショット写真が掲載される。

 それにマスコミが追随し、「香取慎吾に新恋人!! 相手は女子高生」と報道。さらに、その後の続報で、2人は「交際」関係ではなく、香取が「ストーカー行為」をしていたという事実が発覚した。

 香取は一連の報道に対し沈黙を貫いたため、取材班は相手の女性A子に接触する。

 彼女は独占取材に応じ、その出会いからこれまでのことを語った。

「香取さんの誕生日に、私はプレゼントを用意していて渡そうとしたときに転んじゃったんですよ。そのときに香取さんが抱き起こしてくれて。そのプレゼントの中にケータイの番号を書いていてそれを見て電話をしてきてくれたんです」「彼は私と深い関係っていうのを考えていて。でもまだ高校生だし断ったんです」

 すると香取は待ち伏せをし「話がある」と強引に迫ったり、一方的にプレゼントを贈ったりしてきたという。そして彼女が香取からもらったというネックレスは、以前香取がしていたものと同じであることが、残された収録素材から証明された。

「この女子高生のインタビューからも慎吾くんがストーカー行為をしていた事実がハッキリしましたよね」

 VTR明け、前田忠明が語っていると、マスコミ各社に香取慎吾本人からFAXが届き、その文面が読み上げられる。 「世間をお騒がせして大変申し訳ありません。SMAPの香取慎吾を捨て、僕は一人の女性を愛して生きていきます。日頃お世話になっている皆様、ファンの皆様には、大変ご迷惑をおかけしますが、これも一人の男として決めたことです。わがままを許してください。香取慎吾」

 それに対し「わがままというより犯罪ですよ!」と前田が激昂している。 そうこうしているうちに、人質のうちの1人が自力で脱出。ナイフで刺されケガをしているという。脱出した女性の話では香取は錯乱しており、いつ危害を加えられてもおかしくない状況とのこと。これを受け、狙撃隊が現場に到着した。