1ページ目から読む
4/4ページ目

 体に蓄えた脂肪を冬眠中にエネルギーとして消費しながら、100日を超える冬眠期間を過ごしたクー。冬眠から目覚めてしばらくは「動きは緩慢でもっさりしている」といいます。その後2週間ほどで通常の展示へと移行します。

冬眠明け直後の様子。緩慢でもっさりとした雰囲気 (公財)東京動物園協会提供

 春が過ぎて夏になり、そして季節が過ぎて秋になると、次の冬眠に向けた準備が始まるのです。

20年近く経つ「冬眠」と「冬眠展示」の試み

 上野動物園では、2006年に新しいクマ舎として冬眠や冬眠展示に対応した「クマたちの丘」がオープンしました。当時の上野動物園の園長、小宮輝之氏の発案で、クマの冬眠に適した施設が作られました。

ADVERTISEMENT

「小宮園長は飼育員時代にクマを担当したことがあり、冬になると行動が鈍くなって寝ぼけたような姿を見せるツキノワグマを見て、冬眠をする生態であることを実感したと聞いています。クマにとって自然な行動である冬眠を動物園でも実現したい、さらにその冬眠の様子を見せたい、ということで冬眠のプロジェクトが始まりました」(鈴木さん)

 当時もクマの冬眠を行なっていた施設はありましたが、冬眠を見せる「冬眠展示」は上野動物園が初めての試みでした。観覧エリアの一角に設けられたモニターでは、冬眠室内のライブ映像が映し出され、来園者も冬眠中のツキノワグマを鑑賞することができるようになりました。

「冬眠中の寝ている姿も興味深く見てくださったと聞いています。どんなふうに冬眠をしているのか、ツキノワグマの冬眠は多くの人にとって不思議な行動だったのかもしれません」(鈴木さん)

冬眠を乗り越えられるからだをつくる

 冬眠に取り組んで約20年。長く続くツキノワグマの冬眠に対し、飼育担当者は今、どのように取り組んでいるのでしょうか。

「冬眠はクマにとって大きなイベントです。クマが冬眠をきちんと乗り越えられるように健康管理をすることは、回を重ねた今でも変わりません。冬眠に備えてどれだけきっちりと準備をするか。秋から冬にかけて餌を食い込ませ、しっかり体重を持ち上げて冬眠に入らせること。冬眠前も冬眠中も、健康状態に気を配っています」(鈴木さん)

 飼育下での冬眠を続けるなかで、わかってきたこともたくさんあるとか。

「冬眠中のツキノワグマの心拍数や呼吸数の変化は、冬眠に取り組んで初めて数値を取り、傾向が見えてきました。また、室温をそこまで下げなくても冬眠に入る年があったり、冬眠ブースに入らずに眠り始めてしまうことがあったり、クマの行動もわかってきました。冬眠チャレンジで判明したことは、広報誌や論文で発表するなど、情報共有を行っています」(鈴木さん)

 動物園では、ツキノワグマの冬眠の準備がすでに始まっています。冬眠に向けてツキノワグマが何を食べ、体格がどのように変化していくのか。クマたちの丘で、ツキノワグマの冬眠に思いをはせながら観察してみるのも動物園の楽しい巡り方かもしれません。