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「例年、冬眠の準備は9月頃から始まります。この準備というのは、“餌を食い込ませること”です。冬眠中のクマは基本的に絶食の状態で、体重は減少します。動物園では冬眠に入る前までに栄養をしっかり与え、脂肪をつけて体の準備をしていきます」(鈴木さん)

 この期間によく与えているのは、サツマイモや、くるみ、落花生、どんぐりなどです。特にどんぐりは、野生のツキノワグマもよく食べている木の実。動物園でも脂肪がつく木の実を選んで与えています。

クルミを食べるツキノワグマ (公財)東京動物園協会提供

 では、どのくらい餌を食い込ませるのでしょうか。その目安は「体重」です。

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「これまでの研究や冬眠の経験から、ツキノワグマは冬眠中にベース体重の30%ほど減少することがわかっています。減る分を増やす考えで、9月から12月ごろの冬眠に入るまでの間に、ベース体重の30%分を増やすことを目標に餌を与えます」(鈴木さん)

 この「ベース体重」とは、冬眠準備に入る前の体重のこと。クーの場合、昨年の8月末の体重は87.3kgで、その30%にあたる26kgを増やすことを目標にしたといいます。

「昨年はクーに餌を食い込ませ、113kgまで体重を増やしました。冬眠前は体も丸くなりますし、冬毛でフサフサしたフォルムになるので、見た目の変化を実感できると思います」(鈴木さん)

巣篭もりをする部屋は真っ暗で無音

 さて、動物園ではどのように冬眠へと誘導するのでしょうか。

「冬が近づくと、次第に食べる量が落ち、動きが鈍くなります。長年冬眠にチャレンジしてきた上野動物園では、クマの様子やその性格などから、冬眠に入るおおよその時期の見込みをつけることができます。『そろそろ冬眠に入るかな』というタイミングで、室温を下げた冬眠の部屋へと誘導します」(鈴木さん)

ツキノワグマが冬眠をする「冬眠室」と「冬山の部屋」の様子は外のモニターから観覧できる (公財)東京動物園協会提供

 冬眠をするのは、音も光も入らない真っ暗な1畳ほどの「冬眠ブース(冬眠室)」で、手前には、冬眠の準備室である「冬山の部屋」があります。ここは、冷却機能があり、自然の山を想定して室温をマイナス5度まで下げることができる空間です。冬眠中、クマはこの2室を自由に行き来することができます。一方、飼育員は基本的に立ち入ることも外から覗くこともできません。部屋に設置されたカメラや計測機器を通して、クマの様子や健康状態を観察しています。

「ツキノワグマは冬眠ブースに入り、まるまって動かなくなります。それが冬眠の始まりです」(鈴木さん)

 ツキノワグマの冬眠で特に気を遣うのは「音」なのだそう。冬眠の施設には防音処置が施され、賑やかな動物園でも静かな環境を作っています。