人生100年時代を乗り越える健やかな体をつくる
年齢を重ねても、いきいきとアクティブに暮らす人たちがいる。日ごろの食事や運動習慣などによって、体と心のコンディションは大きく変わってくる。いつまでも快活に、自分らしく生きていくためにはどのような心がけが求められるのだろうか。本特集では、人生100年時代をアクティブに生きる助けとなる商品を紹介する。
やるか、すぐやるか!
筋トレで“動くカラダ”を 取り戻そう
足腰が衰えて、昔のように動けない……こんな悩みを抱えているシニアは多いのではないだろうか。しかし、諦めるのはまだ早い。「筋肉は裏切らない」のフレーズで知られる順天堂大学教授の谷本道哉先生に、シニアにおすすめの筋トレについて聞いた。
――年を取ってから筋トレを始めても効果がありますか。
谷本 もちろんです。筋肉は鍛えることで、60歳でも、70歳でも強く、大きくなっていくからです。加齢に伴って筋量は年々減少します。しかもふくらはぎや太ももの前側など大事な筋肉ほどよく落ちていきます。老いは足元からやってくるのです。しかし筋トレをすれば、筋肉が落ちる速度をゆるやかにするどころか、筋量を増やすことも可能です。実際、85~97歳の方が太ももの筋トレを3カ月続けたところ、およそ10%筋肉が大きくなったというデータがあります。特に、もともと運動習慣のなかった人ほど効果は大きい。つまり“伸びしろ”があるといえるでしょう。ただし、筋肉が裏切らないかどうかはやり方次第です。
――どんな点に気を付けるべきでしょうか。
谷本 「大きく動く」「きついところまでやる」の2点です。筋肉には、強い負荷がかかった際に使われる「速筋」と、負荷が低く持続的な運動で力を発揮する「遅筋」があります。このうち速筋は加齢に伴って減少しやすいのですが、筋トレでしっかりと速筋を使うことで大きくできます。また筋トレに伴って代謝される乳酸が、実は脳のエネルギー源になることもわかってきました。最近では筋トレが脳機能の向上を助けるのではないかという研究もされています。
――シニアにおすすめのトレーニングを教えてください。
谷本 まずやってほしいのはスクワットです。太もも、おしりという体を支える大切な筋肉を鍛えられます。カーフレイズ(直立状態でかかとを上下するトレーニング)は、ふくらはぎの筋肉を強くします。階段などの段差で行うとより深くかかとを下げられて効果的です。また、背筋も積極的に鍛えてほしいですね。いすに浅く腰掛けて、上半身を大きく前に倒して背中を丸めて、次は背中を反らせながら起き上がる。この動きを繰り返すと脊柱起立筋がしっかりと使われます。いずれも「大きく動く」ことが大切です。浅いスクワットを何十回と繰り返しても数が多いばかりで効率的とは言えません。浅いスクワットは浅はかなスクワット。スクワットをするならゆっくり深く腰を下ろしきってから、立ちあがる。この動きが大事です。
――どのくらいの回数、頻度でトレーニングするといいでしょうか。
谷本 負荷の強い運動なら10回程度、負荷が軽ければ30回程度でしょうか。基本は「きついところまでやる」ということ。しっかりと速筋を使うと、鍛えられた部位がパンパンに張るので自然とわかります。頻度は一般的には週3回程度だと言われますが、もう少し筋肉の回復時間がいるなと思えば少なめでもいいし、回復できていると思えばもっとやっても構いません。
――特別な器具を必要としないので、思ったより手軽に始められそうですね。
谷本 そのとおりです。筋トレで使う筋肉は局所的で、全身の疲労感はそれほどではありません。また普段着のままで気が向いたときにさっとトレーニングできます。最近は健康経営の意識が広まり、オフィスで簡単なトレーニングを推奨する会社も増えています。社会全体で筋トレが、健康のための当たり前の行動になるといいですね。筋トレに特別な準備はいりません。「やるか、すぐやるか」ですよ!
・運動の前に、周囲の環境や道具が安全かを確認しましょう。
・痛みを感じたり、ふらつく場合は無理をせずに中止しましょう。
アクティブに生きるための注目ワード
●転倒で要介護になる可能性も
加齢に伴って転倒事故は増える。室内のコードや段差につまずくほか、筋力低下やバランス不足から転んでしまうケースも少なくない。シニアは骨が弱くなっているため、転んだことで骨を折り、要介護になることも多い。足腰の筋力やバランス能力を鍛えることは健康寿命を保つうえで不可欠といえる。
●要介護になる原因1位は「認知症」
介護が必要となる主な原因は、「認知症」が最多(※)。認知症が進行し判断能力が低下すると、さまざまな法律行為が無効となる。相続に関して希望がある場合は、元気なうちに遺言を残す必要がある。遺言を使えば家族に財産を引き継ぐだけでなく、財産の一部を慈善団体に寄付する「遺贈寄付」も可能だ。
※厚生労働省「国民生活基礎調査」2022年
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