なんと、“あの”『君よ憤怒の河を渉れ』が、福山雅治主演・ジョン・ウー監督という布陣でリメイクされるという。オリジナル版は高倉健主演、伝説の作品なのだが、「“あの”」と書いたのは、原作が日本屈指の豪腕エンタメ作家・西村寿行の名作だからだ。

 70~80年代に「ハード・ロマン」と呼ばれて出版界を席巻した西村寿行。社会派ミステリでデビュー後、『君よ~』を契機に冒険小説に転身。異常に濃密な情念を充填した作品を膨大に生み出す。

 これがもう身体が弱っているときに読むと熱を出して寝込みそうな異様な徹夜本ばかりで、そこから厳選しておすすめするのが、大破壊復讐小説、『往きてまた還らず』

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 公安捜査官・伊能が、無差別テロ犯を追う物語なのだが、冒頭からして尋常ではない。ガソリンスタンドが爆破され、新宿の高層ビルと地下街が火の海になるのである。主人公の伊能はこの事件で姉を失い、復讐のために悪魔じみた犯人を追ってゆく。やがて日本を滅ぼしかねない規模にまで拡大する危機をリアルに見せるのが西村寿行の熱く濃い文章。テロを犠牲者の視点で描き切る場面など圧巻の一語である。物語の骨子はTVドラマ『24-TWENTY FOUR-』に似ているが、熱量は比較にならない。『24』に致死量のアドレナリンと怨念をぶちこんだような按配である。

 四十年前の小説なのに少しも古びていないのも驚きで、むしろ今読むと濃密な憎悪の心理描写が暗黒小説を思わせるエンタメ超大作なのだ。

 あいにく本書は現在、電子版でしか流通していない。だが、ここは逆に考えよう。こんな特濃徹夜本が1クリックで手に入るのである! 今すぐクリックだ!(紺)

往きてまた還らず(上・下合冊版) Kindle版

西村 寿行 (著)

光文社
2005年9月22日 発売

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