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2025年のお金との付き合い方
〈守る〉〈のこす〉〈ふやす〉

人生100年時代を迎え、資産運用や相続対策への関心が高まっている。本特集では、自分らしくお金を守り、次世代にのこし、そしてふやしていくためのヒントを有識者にアドバイスしてもらいながら、考えていく。

資産形成は長期・分散・積立 始めるのに遅すぎることはない
――ファイナンシャルプランナー 岩城みずほさんに聞く

8月に日経平均株価急落 実感した投資教育の成果

岩城 みずほ
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
オフィスべネフィット代表
金融商品を販売することによるコミッションを得ず、中立的な立場でコンサルティング等を行う
岩城 みずほ
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
オフィスべネフィット代表
金融商品を販売することによるコミッションを得ず、中立的な立場でコンサルティング等を行う

 2024年はかつてないほどに資産形成への関心が高まった1年だった。日本証券業協会の発表によると、証券会社10社(大手5社・ネット5社)の2024年1~9月におけるNISA(少額投資非課税制度)口座開設件数は約303万件。これは2023年1~9月におけるNISA口座開設数と比較すると約1.9倍に増加しているという。また同期間の買付額は、成長投資枠が約7.5兆円、つみたて投資枠が約2.7兆円であり、2023年1~9月の買付額と比較すると成長投資枠で約4.3倍(一般NISAと比較)、つみたて投資枠で約3.1倍(つみたてNISAと比較)に増加している。

 「年齢や資産規模、投資経験に関わらず、多くの人がNISAを利用して資産運用を始めています」とファイナンシャルプランナーの岩城みずほさんは話し、その背景には、インフレの定着があると指摘する。資産価値を守るために、これまで預貯金しかしてこなかった層にも資産運用が浸透しつつあるわけだ。「日経平均株価が過去最大の下落幅を記録するなど、8月上旬には、世界的に株価が大きく調整されました。しかしその時も売却せず、冷静に受け止める方がほとんどでした。長期・分散・積立のメリットを訴える投資教育の成果が出ていることを実感しました」(岩城さん)

 NISAで運用する具体的な商品選びについて岩城さんは「なるべく低コストであらかじめ分散効果が期待できるものが中心」と話す。考え方としては年金運用などでも使われるコア・サテライト戦略が参考になる。これは資産の中核部分(コア)は低コストで分散して長期で安定的に増やし、資産の一部(サテライト)でより高いリターンを狙うという投資手法だ。「個人的にはNISAの生涯非課税投資枠の1800万円は、すべてコアとして低コストのインデックスファンドなどで運用していいと思います。個別株を保有する場合、それはサテライトの位置づけで、NISAではなく特定口座や一般口座で保有したほうが損益通算もできるので使い勝手がいいかもしれません」と岩城さん。

 むしろ大切なのは商品選びよりも「長く続ける」ことかもしれない。図表(1)は1998年7月から2024年9月末までの26年3カ月間に、日本を含む全世界の株式に投資するインデックスファンドに毎月1万円ずつ投資した場合のシミュレーションだ。315万円の累積投資額が直近で約5倍に成長している。過去の実績ではあるが、時間を味方につけることで、利益がさらなる利益をもたらし、資産が雪だるま式にふえていく複利効果が発揮されることがわかる。

出所:岩城みずほ氏提供資料を基に作成
出所:岩城みずほ氏提供資料を基に作成

 世界有数の長寿国である日本では、退職してもその後の人生は20年以上あると考えておいた方が無難だろう。老後の資金計画は、公的年金を軸に足りない分を自助努力で賄うのが鉄則だ。さらに退職後も資産運用を継続し、必要に応じて運用益を取り崩していくという発想が、これからの長い老後生活を豊かに過ごすためには欠かせない。その意味で資産運用は生涯付き合うべきものであり、中高年になってから始めても、決して「遅すぎる」ことはないはずだ。

次世代への資産移転は老後資金計画の把握から

 一方で自分が築いた資産をどのように守り、次世代にのこしていくかというのは、高齢化社会の重要なテーマといえよう。体力や認知機能が低下してからでは、本来望んでいた資産移転ができなくなる可能性もあるので、元気なうちに検討したい。

 次世代への資産移転の手段の一つに生前贈与がある。とはいえ、焦って生前贈与をしたことで自分の老後資金が心許なくなっては本末転倒。やはりまずは自身の老後資金計画をしっかり把握しておくことが肝心だ。昨今では自分の死後、「遺産を広く社会のために役立てたい」との思いから遺贈・寄付を選択する人が増えている。その場合も自分の老後資金計画を把握しつつ、早めに遺言書を作成しておきたい。