日本のファンタジー小説の原点とされる『南総里見八犬伝』は、滝沢(曲亭)馬琴が28年もの歳月をかけて完成させた。映画『八犬伝』は、その小説をスペクタクル満載で描く【虚】のパートと、稀代の戯作者の日常を紡ぐ【実】のパートを交錯させながら、馬琴の創作にかける執念に迫る。

 生み出した作品のごとく自らも正義を信じ、報われずとも正しく生きようとして苦悩する馬琴を演じるのが役所広司。馬琴を懸命に支え、奇跡を起こす義理の娘・お路を黒木華が演じる。馬琴に似て虚と実の狭間を生きる俳優ふたりに、自身の信じる正義について語ってもらった。

 

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俳優の仕事のおもしろさ

役所 虚の仕事ですからね、ぼくたちは。演じるうえでは正義と悪、両方に対する思いが必要です。でも悪が得をするようなストーリーでもやっぱり、観客の心に正義が残る作品にしたい。日常でなかなか正義をかざせないいち庶民でも、役を借りれば堂々と言葉を発することができる。それは俳優の仕事のおもしろさです。

黒木 そうですね、素の自分では絶対に言わないようなことを言えたりします。人生の実の部分が虚の演技に活きることもあるし、反対にまったく活きないことも。そこはすごくおもしろいところです。

 

日常における正しい行いも、正義

役所 ぼくだって正義だけで生きてるわけじゃなく、悪いこともしてきました。

黒木 えー、知りたい(笑)。

役所 それで反省した結果が、自分の演技に役立つことはたくさんあるんです(笑)。

黒木 正義とまでは言えなくても、横入りしないとかゴミをポイ捨てしないとか、そういう身近なことは考えます。絶対にやらないこと。

―まず日常における正しい行いから。それもやっぱり正義ですよね。

役所 子どもの頃は完璧な正義の味方が大好きだったんですけど、年を取るにつれ「ありえないよ」って世の中を斜めに見たりする。でもこの『八犬伝』の曽利(文彦)監督はまさに正義大好きな方。大人になると正義を真正面から表現するのは照れくさいんですけど、監督を見ているとそういうのを超えて堂々と語れる感じがします。