「ロシアに派遣された北朝鮮兵士」
これに対し、特殊作戦軍兵士は主に複葉機のアントノフ2(ソ連で1947年に開発)などを使って低空で侵入した後、落下傘で後方地域に入る。北朝鮮軍で勤務した別の60代の脱北者によれば、浸透する地域は韓国中部の大田(テジョン)にまで達する。
特殊作戦軍兵士は毎年、「千里(約400キロ)行軍」を行い、体力にも精神力にも秀でている。ただ、要人の暗殺術を備えたり、金正恩総書記の護衛を務めたりする要員はともかく、後方かく乱を担当する兵士の戦闘力は軽歩兵ほどではないという。
陸上自衛隊の第1空挺団長を務めた岩村公史元陸将は、ウクライナ当局が「ロシアに派遣された北朝鮮兵士」と説明する動画を視聴した。岩村氏も「映像で見ただけで詳しくはわからないが、北朝鮮も使い捨てにしても構わないと考えているだろうし、それほど精強な兵士とは感じなかった。急速に錬成した一般兵を特殊部隊と言って出すのかもしれない」と語る。
岩村氏によれば、北朝鮮は今回、軍隊派遣の通常パターンである「兵士・装備・指揮統制」のセットではなく、兵士個々人をロシアに送り込み、そこでロシア軍から装備品の支給を受けている。同氏は「北朝鮮はいざとなれば、(国家としての参戦ではなく)個人が勝手に義勇兵として参加したと言い逃れができるようにしているのかもしれない」と語る。
北朝鮮特殊部隊の運用
では、北朝鮮特殊部隊はどのような任務を負うのだろうか。金博士によれば、特殊作戦軍兵士の場合、通常、8~12人程度の単位でひそかに目標地域に侵入し、水源地に毒物を流したり、交通や発電などのインフラ施設を破壊したりする。
岩村氏は「北朝鮮軍兵士はロシア語ができないし、ロシア軍と合同軍事演習をしたこともない。そもそも北朝鮮軍は燃料不足などの事情から、戦車や装甲車などの重装備と協同した演習の経験が不十分だ」と語る。