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安倍晋三 首相
「政府としては制度が適正に運用されるよう今後も指導を徹底していく」

毎日新聞 3月12日

加藤勝信 厚労相
「野村不動産をはじめとして、適切に運用していない事業所等もありますから、そういうものに対してしっかり監督指導を行っている」

朝日新聞デジタル 3月4日

 裁量労働制の適用拡大に関する厚労省のデータねつ造問題は大きな注目を浴びたが、その直後に発覚した「野村不動産問題」も働き方改革関連法案に影を落としている。

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 野村不動産は、本来企画立案などの業務が対象の裁量労働制を、営業活動を担当する社員らに不当に適用。約2億円の残業代未払いや違法残業などがあり、2017年12月に厚生労働省の勝田智明東京労働局長が野村不動産の宮嶋誠一社長を呼んで、同社に対して「特別指導」という極めて異例の指導が行われた。

 安倍首相は1月29日の衆院予算委員会で働き方改革関連法案について「働かせ放題にならないか」と迫られた際、同社への特別指導に言及して「政府としては制度が適正に運用されるよう今後も指導を徹底していく」と述べた。加藤勝信厚労相も2月20日の衆院予算委員会で裁量労働制の危険性を指摘されると、野村不動産の例を挙げて「しっかり監督指導を行っている」とかわした。安倍首相も加藤厚労相も違法適用を取り締まった具体例として野村不動産を取り上げてきたわけだ。

衆院厚生労働委員会にて加藤勝信厚生労働相

 しかし、今年3月4日、裁量労働制を不当に適用された1人の50代男性社員が2016年9月に長時間労働が原因で自殺していたことが発覚。男性は月の残業時間が180時間を超えていた。東京労働局が異例の特別指導に踏み切ったのは、過労死した社員の遺族から受けた労災申請がきっかけだった。

 安倍首相と加藤厚労相は「しっかり監督指導を行っている」と過労死は未然に防げるようなことを言っていたが、実際には社員が過労死しなければ実態は明らかにならなかった。また、野村不動産への特別指導が行われた時点で、加藤厚労相が過労死の事実を把握していたかどうかも焦点となった。知っていたのであれば、明らかな「過労死隠し」に厚労省のトップが関与していたことになる。安倍首相と加藤厚労相は、過労死のことを隠して、取り締まりの成果だけ強調していたのではないか?

加藤勝信 厚労相
「労災で亡くなった方の状況について逐一私のところに報告が上がってくるわけではございませんので、一つ一つについて、そのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません」

朝日新聞デジタル 3月5日

 加藤厚労相は野党議員から追及を受けたが、説明をひたすら拒み続けた。なお、加藤氏がいかに野党の追及をかわすためにさまざまなテクニックを使ったかについては、上西充子氏(法政大学キャリアデザイン学部教授)による「『朝ごはんは食べたか』→『ご飯は食べてません(パンは食べたけど)』のような、加藤厚労大臣のかわし方」という記事に詳しい。結局、加藤氏が野村不動産社員の過労死を初めて認めたのは4月10日になってからだった。