「会が始まる直前、一瞬場が静まり、『楽しくて、でもちょっと緊張するような何か』の始まる気配が満ちるんです。子供の頃に戻ったかのような、お勉強のようなお楽しみ会のような学芸会のような、何かすごく楽しいことへの期待。その空気を作品に込めたいと思いました」
作中の読書会の面々は個性的だ。ふくよかで彫りが深く、眉が濃い女性は、イタリアのマンマを思い起こすから「マンマ」。みごとな白髪をお団子にし、丸襟ワンピースで現れた小柄な女性は「シルバニア」。「会長」に「蝶ネクタイ」に……。
「みんな個性は強いけれど、特別な人は書いていません。だから、ある意味で本当によくある話になったと思います。たとえば物忘れがひどくなったうちの母なんて、『忘れたから教えて』と言いたくないあまり、『私の趣味って何だと思う?』とクイズにして聞いてくるんですよ(笑)。そんな“あるある”も詰め込みました」
読書会はマンマが「這ってでも行きたい」と言うほどに六人の「生きる甲斐」になっているが、平均年齢八十五歳の会となれば変化も避けられない。結成二十周年を記念した公開読書会を前に、大きな転換点が訪れ――。
「読書会に参加している母は、『母親』でも『妻』でもなくて、“もともとの母”に見えました。それまで、家族にも親戚にも見せなかった顔つき。たいそうフレッシュな老人でした」
読後はきっと、「ちいさな集まり」の煌めきが羨ましくてたまらなくなる。
あさくらかすみ 一九六〇年生まれ。二〇〇三年「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞、〇四年「肝、焼ける」で小説現代新人賞受賞。『田村はまだか』『平場の月』など著書多数。