登山家の栗城史多さんがエベレストで亡くなった。これを書いている5月22日現在では、死因などについての詳しい情報が入ってきていないので、事故についてはなにもわからない。現時点で言えることは、栗城さんが亡くなったことは間違いないようだということだけ。事故の詳しい状況は、おいおい明らかになっていくと思うので、その時点で、なんらかの論評はできるのだろう。
栗城さんというのは、なにかと物議を醸してきた登山家だ。世界7大陸最高峰の無酸素単独登頂をめざして活動し、注目され始めたのは、2009年ごろ。6大陸の最高峰に登り、残るエベレストに挑戦を始めたころだ。このころから、彼を取り上げたテレビ番組が数多く放送され、著書はベストセラーになり、現役の登山家としては圧倒的な知名度を獲得していった。一方で、その登山の内容や発言には疑わしいものが目立つとして、激しいバッシングも受けていた。これほど評価の振れ幅が大きい登山家は、栗城さん以外にはちょっと記憶にない。
絶賛から否定まで、さまざまな評価
評価は、絶賛から罵倒まで、本当にさまざまで、大ざっぱにいえば、一般社会からはおおむね好意的評価を受け、登山を知る人からは逆に否定的に見られていたことが多かったように思う。私は登山雑誌編集者およびライターであるが、肯定・否定いずれからも距離を置き、離れたところから静観してきた立場だ。
なぜ静観してきたのかというと、わからなかったからである。栗城史多という登山家を、栗城史多という人物を、自分のなかでどう位置づけてよいのか、ずっとわからなかった。栗城さん本人を知る人に聞いても、評価はまさに真っぷたつ。世間的な評価だけでなく、一次証言としての評価もこれほどブレの大きい人は滅多におらず、ただただ、「よくわからない不思議な人」というイメージしか持てなかった。