嵐の二宮和也が主演する現在放送中の医療ドラマ「ブラックペアン」(TBS)に対し、治験コーディネーター(CRC)の認定制度を運営している(社)日本臨床薬理学会がこの5月7日付でTBSテレビに見解書を送付する事態となり、ネットなどで物議を醸しました。
大学病院や基幹病院では医薬品や医療機器などの安全性や有効性を確かめるために、実際の患者を対象にした臨床試験がいくつも行われています。このうち、新しい医薬品や医療機器としての承認を国から得るために実施される臨床試験のことを特に「治験」と呼んでいます。
この治験をはじめとする臨床試験が円滑かつ適正に行われるよう、被験者(臨床試験に参加する患者)や責任医師、製薬メーカーなどの間で連絡、調整、サポート業務を行うのが「治験コーディネーター」の役割です。正式には「臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator)」と言い、略称で「CRC」と呼んでいます。
「300万の小切手」は実際には7000~8000円
たとえば被験者候補となる患者に対しては、臨床試験に参加できる条件(年齢や病状、検査値など)を満たしているか確認をしたり、患者が臨床試験の内容をよく理解できるよう医師の説明をわかりやすく補足したり、被験者が臨床試験を安心して続けられるようケアを提供し、時にはご家族の支援も行ったりすることがCRCの主な役割となります。なお、臨床試験に参加するかどうかはあくまで患者の自由意思に基づくので、製薬メーカーや医療機関から誘導や強制をされることはありません。
ドラマでは、女優初挑戦となるフリーアナウンサー加藤綾子が演じる治験コーディネーターが、治験を依頼した企業と契約した人物として描かれ、治験の責任医師らを三ツ星レストランで接待するシーンや、治験を受ける患者に対して「負担軽減費」として「お納めください。早急に御入用とうかがいましたので」と額面300万円もの小切手を手渡すシーンなどが放映されました。
「ドラマの演出上という言葉で片付けられない」
しかし、同学会は見解書で、現実には治験コーディネーターはあくまで(企業ではなく)医療機関側の人材であること、また負担軽減費を患者に手渡すことはあっても、1回あたりに交通費と軽い昼食代に相当する7000~8000円程度がほとんどで、多額の負担軽減費で患者を治験に誘導することは厳に戒められていると指摘。そして、ドラマでの描き方に対して、こう異議を申し立てました。
「これらのことは、ドラマの演出上という言葉で片付けられないと私たちは考えます。日々、患者様に真摯に対応しているCRC達が、医師達に高額の接待を行い、患者様に多額の負担軽減費を支払っていると誤解されることはCRCを認定している学会として残念でなりません」
私もニュースなどに接して、このCRCの描かれ方には違和感を覚えました。なぜなら、このような治験における医師と企業との癒着や、患者の治験への強引な誘導、試験データの改ざんといった不正を防止し、治験の透明性を高めることこそが、CRCの役割の一つだと考えるからです。