また、この20年ほどの間に、臨床試験における企業と医師との癒着にも、社会から厳しい目が注がれるようになりました。かつては、製薬会社の人たちが医師たちを銀座や北新地のクラブに接待して豪遊させることや、治験に参加する医師らに「指導料」という名目で大金を渡すことも実際にありました。
しかし、そのようなことを野放しにしていたら、臨床試験の結果が企業に有利になるようデータが歪められたり、結果を企業に都合よく解釈されたりするようなことが起こります。今世紀に入って、医療界では世界的に企業との癒着(利益相反)が問題視されるようになり、日本でも製薬業界が接待費に上限を設けるなど自主規制するようになりました。今では、銀座や北新地で豪遊する医師はめっきり減っています。
巨額のカネが動いた「ディオバン事件」の教訓
とはいえ、いまだに臨床試験において不正が発覚することがあるのは事実です。その典型が「ディオバン事件」でしょう。2007年から09年にかけて発表された高血圧薬(降圧薬)ディオバンの臨床試験に関する論文で、結果がディオバンに有利になるようデータがねつ造されていたことが発覚しました。このディオバンをめぐっては、臨床試験を実施した各大学の医局に、製薬会社からトータルで数千万から数億円という単位の寄附金が支払われていたことも問題となりました。
また、現在でも様々な医学論文で、企業から研究者側に研究費や寄付金、コンサルタント料、講演料などが提供されているために、専門家から「臨床試験のデータが企業に有利な結論に捻じ曲げられているのではないか」と指摘されることがしばしばあります。企業に不利な結論が出ようが出まいが、臨床試験は疑義が出ないよう、中立公正に実施されなければなりません。そうでないと、ボランティア精神で臨床試験に参加してくれた人たちにも失礼です。
加藤綾子さんが不正を見抜く役回りだったらカッコよかったのに
私はむしろ加藤綾子さん演じるCRCが、医師や企業の不正を見抜くような役回りだったら、カッコよかったのにと思います。現実のCRCの方々にも、そのような役割も期待されていることを自覚していただき、臨床試験のますますの適正化に寄与してほしいと願っています。
一方、現実ではありえないような極端なキャラクター設定や場面設定をして、視聴者をドキドキワクワクさせることがドラマの醍醐味です。医療ドラマでも、「そんなことありえないよ!」とばかり言ってしまったら、ドラマ自体がつまらなくなるでしょう。ですから、多少現実離れしたオーバーな表現があったとしても、あまり目くじらを立てずに虚構を楽しめばいいと思います。
ただ、視聴者の多くが患者として医療に関わります。多くの人に誤解を与えたり、医療現場の人たちの気持ちを萎えさせたりしてしまう表現は、やはりよくなかったかもしれません。せっかく医療監修が入っているのですから、メーンである手術のシーンばかりでなく、こうした専門職の仕事まで、細やかにチェックすることが必要ではなかったでしょうか。
逆に、これを機会に臨床試験のことや、CRCの仕事について社会の理解が深まれば、これ幸いかもしれません。TBSのドラマスタッフが学会の見解書を無視せず、「ブラックペアン」をどう展開していくのか、楽しみに見守りたいと思います。