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そもそもCRCは被験者の人権を守るために導入された

 そもそも日本にCRCが導入されたのは、1997年頃に治験の進め方を国際基準に合わせて厳格化した「新GCP(Good Clinical Practice)」と呼ばれる「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」が法制化されたのがきっかけでした。

CRC(治験コーディネーター)を演じる加藤綾子さん ©文藝春秋

 臨床試験を適切に遂行するには、被験者の人権を守り、安全性を担保すること、データの信頼性を確保することが不可欠です。法制化される前、日本にも臨床試験の実施基準(旧GCP)はありましたが、あくまで国からの「通達」に過ぎず、罰則がありませんでした。そのため臨床試験を実施するにあたって、患者に不十分な説明や口頭での同意だけで済ませてしまうことや、ひどい場合には患者が知らぬ間に被験者にされてしまうこともありました。

 しかし、これは大問題なのです。なぜなら、患者の人権を踏みにじることになるからです。

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 多くの人が、新しい医薬品候補の物質や医療機器候補の機械を試せるのは幸運だと思うかもしれません。確かにそれによって救われる人もいるでしょう。ですが、新しいからと言って、それが従来の医薬品や医療機器より優れているとは限りません。それに、未知の副作用で体がダメージを受ける可能性もあります。つまり、不利益が出ないよう十分注意がされているとはいえ、臨床試験に参加することで、デメリットを被ることもあり得るのです。

 それでも、どうして臨床試験を実施する必要があるのかというと、それは被験者本人のためというより、同じ病気で苦しむ未来の患者に有益な医薬品や医療機器を提供するためなのです。私たちが病気にかかったときに、一定の有効性や安全性を確かめた医薬品や医療機器を使えるのは、過去に行われた臨床試験に参加した、たくさんの人たちのおかげです。つまり、臨床試験の被験者になることは、ボランティア精神に基づくとても貴い行為だと言えるのです。

「実験台」にさせられないために

 しかし、デメリットもありうることを十分説明されず、臨床試験の被験者にさせられたとしたら、それは有効か安全かどうかもわからない物質や機械を試す「実験台」にさせられたのも同然ということになります。実際に、臨床試験を行うにあたって説明と同意が不可欠だと説いた世界的な倫理規定「ヘルシンキ宣言」(1964年)は、ナチスの人体実験の反省から生まれています。

 このような人権侵害を防ぐために、新GCPでは臨床試験に参加する患者に対して説明を尽くすとともに、被験者の「自発的同意」と口頭ではなく「文書による同意」を得ることが求められるようになりました。また、臨床試験を円滑かつ適正に行うには、あらかじめ定められた手順(プロトコール)を遵守して行い、得られたデータを適切かつ正確に症例報告書に記載することも求められています。こうした業務を補助するために、CRCが必要とされるようになったのです。

 一方、医療機関に治験を依頼する製薬メーカーにも、医療機関や責任医師が新GCPを遵守して治験を適正におこなっているかどうか継続的にモニタリング、監査することが義務づけられています。モニタリングや監査の際に生じる製薬メーカーからの問い合わせに対応するのもCRCの役割なのです。