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外務省元幹部が「あり得ない」と語る石破氏の行動

 一方、この元幹部は「集合写真の欠席は、あり得ない出来事だ」と語る。外交現場での写真は、非常に重視されるからだ。「写真巧者」で有名なのが中国だ。写真を通じてマウントを取ろうとする。

 中国・北京の人民大会堂で2024年4月26日、習近平国家主席はブリンケン米国務長官と会談した。習氏はコの字形に並べられたテーブルの「議長席」のような位置に座り、「上下関係」をアピールした。習氏は他国の首脳と1対1で写真を撮る際も、頭を体の中心線からやや外側に傾け、「会談に応じてあげている」という雰囲気をつくる。

石破首相(左)と習近平国家主席(右) ©中国通信/時事通信フォト

 日本側も、中国が写真を重視していることを把握している。安倍晋三首相時代、日中関係は特に冷え込んだ。あるとき、中国側がホスト役の日中首脳会談で、日中の国旗を久々に背景に写し込ませたことを確認し、日本側は「中国に関係改善の機運が出てきた」と喜んだという。

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外交現場の“マウント&エレベーター取り合い合戦”

 外交の舞台では、こうした「マウント取り合戦」がしばしば起きる。韓国が過去にG20の議長国を務めた際には、首脳たちが我先に集合写真のセンターを奪い合うことを懸念。事前に、「就任日時の古い人ほど良い位置に」「大統領か首相か外相か」など、皆が納得するルールを作って位置を整理した。それでも、良い位置に立とうとする「不心得者」が出ないよう、エスコート役をつけて、半ば強制的に決められた位置に立ってもらったという。

 そのぐらい写真が重要だとわかっていながら、石破首相はAPECの集合写真に間に合わなかった。故フジモリ元大統領の墓参り後、事故渋滞に巻き込まれたというのだ。別の霞が関官僚は「予想外の交通渋滞が原因だというが、周囲の調整とサポートが甘かったのではないか」と語る。日本がホスト国になる場合、会議場外での移動については、「〇時〇分発、〇時〇分着」というように1分刻みで動線表を作る。

 外務省と警察庁が協議し、交通状況とにらめっこしながら、パトカーによる先導、車線の確保などを行い、それでも時間通りに行かない可能性がある場合は通行規制に踏み込む。関係省庁の官僚の一人は「今回、石破首相の外出が突然だったとしても、事務方が計算してペルー側とちゃんと調整すべきだったのではないか」と語る。

 動線の確保が必要なのは、会場の外だけではない。大規模な国際会議になると、複数の国の首脳が同じホテルに宿泊するケースも出てくる。会議場に入ったら入ったで、会議の合間に2国間会談などを行うため、やはりスムーズな移動が要求される。そこで発生するのが、エレベーターの奪い合いだ。