1ページ目から読む
3/3ページ目

本当にいるエレベーター係

 2023年5月に広島で開かれた主要7カ国首脳会議(広島サミット)では、主要会場にグランドプリンスホテル広島が使われた。ホテルは広島市の宇品島(うじなじま)にあるため、交通規制は容易だったが、ホテル内のエレベーターの運用が大変だった。当時、サミットの会場設営を担当した官僚によれば、ホテルの宿泊客用エレベーターは6基。マスコミ関係者は従業員用エレベーターを使うことになった。

 サミット事務局で、各首脳の行動表を作り、各首脳がエレベーターを使う時間になると、担当係が控室から決められたエレベーターまでエスコートするようにした。しかし、各国首脳はなかなか時間通りに動いてくれない。会議の打ち合わせや本国との電話協議が相次ぎ、あちこちで「渋滞」が発生したという。

会合にのぞむ各国首脳たち ©時事通信社

 宿泊先のホテルも複数の首脳が同宿するケースがあった。その場合、各国の事務方がまずやる作業が「エレベーターブロック」だという。各国が専用で使えるエレベーターを1基、借り受ける作業だ。外務省の官僚は「普段、定宿にしているホテルなら、総支配人に頼めば、何とかしてくれる。でも、初めて使うホテルや、国連総会で各国首脳が大勢泊まるニューヨーク・マンハッタンの高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアのようなケースは大変だ」と話す。

ADVERTISEMENT

ひたすらボタンを押し続ける

 エレベーターブロックを頼んでも、「それならホテル全体を貸切ってください」と言われるのがおちだ。仕方がないので、首脳だけをエレベーターに乗せて、事務方は階段を一生懸命昇り降りする羽目になる。首脳が移動する時間が近づくと、担当者をエレベーター前に立たせて、ひたすらボタンを押してエレベーターを確保する努力もする。

「エレベーター押し係」は常に、ホテル利用客から白い眼を向けられる。「俺は利用客だぞ。なんの権限で、このエレベーターを使っちゃいけないんだ」と食ってかかられることもある。「今、総理が来ますから」と秘密を暴露するわけにもいかず、ひたすら平身低頭で耐えるのだという。

 今回の石破首相を巡る外交儀礼騒動は、そんな裏方たちの苦労が思い起こされる事件でもあった。