転売ヤーが商材にするものといえば「PS5」や「ガンプラ」などを思い浮かべるが、実は日本を代表するフィギュアスケーター「羽生結弦」グッズもその標的になっていたことはご存知だろうか。ここでは羽生結弦グッズを中心に狙う「ある中国人女性L」の転売ビジネスに密着。300万円を荒稼ぎしたその手口とは? ライターの奥窪優木氏の新刊『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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狙われた「羽生グッズ」
転売のターゲットになるのは、PS5のようなメジャー商品ばかりではない。一部の層で熱烈な需要がある、いわゆる「ニッチ商品」こそ、転売によって大きな利ザヤを得ることができる。
“柚子”グッズもそのひとつだ。といっても柑橘類ではない。柚子とはフィギュアスケーターの羽生結弦の、中国での愛称だ。
彼が中国で人気者になった理由については諸説あるが、きっかけのひとつとされるのは2017年にヘルシンキで行われた世界選手権だ。入賞者の写真撮影の際、優勝した羽生は3位の中国人選手が持つ中国国旗が裏返しになっていることに気づき、直すのを手伝った。その映像が中国のネット上で広がったことで、好感度を一気に上げたといわれている。2022年の北京五輪前には、彼の動向が中国のSNS「微博(ウェイボー」でたびたびトレンド入りするほどの注目ぶりだった。
そして迎えた2022年の北京五輪。2014年のソチ、2018年の平昌と、2大会連続で金メダルを獲得した羽生だったが、4位に終わる。しかし、羽生の中国での人気は衰えるばかりか、ますます高まったようだった。
そんなタイミングで開催されたのが、「羽生結弦展2022」だ。羽生の写真や衣装、獲得したメダルなどを展示するイベントで、2022年4月から5ヶ月間にわたり、全国6ヶ所を巡業するものだった。
もちろん日本国内でも羽生人気は相当のもので、熱狂的なファンたちにとって、この展覧会はビッグイベントだった。展示内容だけでなく、会場内で販売されるという限定グッズも、垂涎の的だった。
2018年の平昌大会の直後にも、「応援ありがとうございます!羽生結弦展」なる展覧会が開催された。その際には、多数の転売ヤーが会場に詰めかけていたことが、SNSなどで報告されている。フリマサイトでも、定価800円台の展覧会限定販売のオリジナルフィギュアの4種組み合わせが、会場配布のチラシ付きで5万5000円で出品されるなど、転売ヤーの暗躍ぶりがうかがえた。
今回は、コロナ禍の真っただ中で、人数制限が実施され、入場には公式サイトでの事前予約が必要になった。会場の日本橋髙島屋では、開催期間の20日間、朝から夜まで15分刻みで予約枠が設定され、開幕の3日前には、すべて予約済みとなっていた。