日本だけでなく、中国でも人気を集めるフィギュアスケーターの羽生結弦さん。なかにはその人気を利用して、グッズの高額転売を行う輩も…。ここでは羽生グッズを商材とする、在日中国人女性Lの「転売ビジネス事情」に密着。ライターの奥窪優木氏の新刊『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

「羽生結弦グッズ」を商材とする転売ヤーの儲け事情とは? ©getty

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「転売ヤー対策」をすり抜ける裏技

 彼女は、日本橋髙島屋で同展が開催されていた20日間、ほぼ毎日足を運んだ。一日複数回、入場した日もあった。

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 事前予約のルールでは「全日程を通し予約は1人1枠まで」「同一のお客様による複数の予約が判明した場合、全ての予約を無効にする」などの制約があった。

 しかしLは、予約時にメールアドレスを使い分けることで、この制約を易々と突破していた。といっても、Lはそれほど大量のメールアドレスを持っているわけではない。彼女が使ったのはある「裏技」だ。

 それは、ひとつのgmailアドレスの、@マーク以前の部分に適当に「ドット」を入れることで、予約システムに「別のアドレス」と誤認させる、というものだ。

 例えば、「abcdef@gmail.com」というメールアドレスを持っていた場合、「a.bcdef@gmail.com」、「ab.cdef@gmail.com」、「abc.def@gmail.com」というメールアドレスを予約フォームに入力する。すると、それぞれ別のメールアドレスとして認識されるのだ。

 ところがそれら宛に送信されるメールはすべて「abcdef@gmail.com」のアカウントで受信することができる。

 近年、転売ヤー対策として事前予約や事前登録を求められることも多いが、この方法を使えば、多くの場合、複数名義で予約を取ることが可能なのだ。

 名義は、念のためそれぞれ異なる偽名で予約していた。しかし、会場では予約時に発行されたQRコードを提示して入場するだけで、身分証の確認などはなかった。

 中へ入るとLは展示物には目もくれず、物販コーナーに直行する。

「転売行為はお控えください」。壁にそう張り紙がされたその場所で、彼女は展覧会写真集やトートバッグやストラップ付きフィギュアなどをどんどんと買い物かごへと放り込んでいく。一見、手当たり次第に見えるが、実は同じ商品を5点ずつ選んでいる。同一商品の購入は、一人当たり5点までに限定されているからだ。他の客からは冷たい視線が刺さる。

 入場するたびにこの調子で大量購入しているLは、何人かの店員の顔を把握している。特に転売行為について釘を刺すようなことを言われたことはない。