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選手とのコミュニケーションもほぼなかった

 さらに内田氏は試合前、宮川選手が近寄り「QBを潰すので使って下さい」と言った点について、「近寄ってきた選手が何を言ったのか、正直わかりませんでした」と述べた。

 日大アメフト部の組織はピラミッド型で、トップにいる内田氏は絶対的権力者である。権力者は他人の行動をコントロールできるため、他人の視点で物を見たり、気にかけたりしなくなるというニューヨーク大による研究結果がある。つまり権力者は、他人や自分より下の人間の存在を意識していないということであり、内田氏の言動はそれを証明している。選手のため、選手を頑張らせようとしていたという話と、実際の言動がかけ離れているのだ。選手とのコミュニケーションもほぼなかったというのだから、選手たちを本当の意味で気にかけていなかったことがわかるのではないだろうか。

前日に行われた選手による記者会見とは、あらゆる面で対照的だった ©浅沼敦/文藝春秋

自分の立場が弱くなることを嫌う

 そんな権力者は、「まずは当該選手に責任を押し付け」という記者の質問に頷き、「今度はコーチに責任を押し付けているように聞こえる」と言われて頷いた。頭を下げて謝罪したものの、言い訳ばかりに終始し、責任を取ることを恐れているように思える。常務理事を辞任しないことからも、自分の地位や立場を守りたいのだろう。

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 行動心理学では、謝罪を拒否した人のほうが、謝罪を拒否しなかった人より「自分に権力がある」と感じているというクイーンズランド大による研究結果が出ている。このタイプの人は、自分の過ちから目をそむけやすく、自分の立場が弱くなることを嫌うらしい。自分の非や間違いを認めたくないから、部下の意見や反論を聞かなくなる。するとその組織では、メンバーの誰もが「気がねなく何でも言うことができる」状態や環境を示す心理的安全性が失われてしまう。こんな組織では、部下は質問したり確認したりしたくても、うるさがられたり怒られたりすることを怖れるようになる。組織の中では権力者に逆らう者がいなくなるのだ。