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「元ちゃんのお父さんもお母さんも良い人だったよ。お父さんは良い下駄職人だったね。元ちゃんとは10歳ぐらい年が離れていいたから、そんなに頻繁に遊んだって思い出はないんだけど、面倒見のいいところもあったよ、よく人の相談にも乗っていたみたいだし、ただ調子良いところもあったけどね。何番目かの奥さんか忘れたけど、きれいな奥さんをもらった時は、どうやって結婚したのが不思議だったね」

なぜ凶悪犯罪に手を染めたのか?

 ここ秩父で関根元は、実家の下駄屋の土間で犬の繁殖をはじめる。そしてこの秩父時代に本人曰くアルバイトをしていたラーメン屋の店主を殺害してもいる。明るく気のいい兄ちゃんである反面、既にこの時期、後の凶悪犯罪へと繋がる芽は着々と育っていた。

 生家近くには、同じ間取りの長屋が残っていた。戸は閉まっていたが、ガラス越しに土間と畳の敷かれた和室が見えた。下駄屋に犬の繁殖、何とも雑然とした家の様子が目の前に広がってきたような気がした。

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廃墟と化した、ペットショップ「アフリカケンネル」(写真:八木澤高明)

 下駄屋という斜陽な商売から足を洗い、新たなビジネスチャンスを嗅ぎ分ける嗅覚を持っていた。ただ、その嗅覚を間違った方向に使ってしまったがゆえに、大きな犯罪へと繋がってしまったのだった。

 夕暮れ時、秩父の街中を歩いていたら、街並みの向こうに山肌が無残にも削られた武甲山が見えた。元々は勇壮な山容を誇っていたという武甲山だが今では石灰岩の採掘によって見るも無残な姿になっている。

 山そのものが人間の欲望により姿を変えてしまっている。己の欲望のために人肉を切り刻むことも厭わなかった関根元。武甲山の山並みと関根元の心の闇が重なって見えた。