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経験者が語るトレードという転機の受け止め方

 ところで、トレードという転機を、経験者たちはどう受け止めているのだろうか。榎田投手は、「突然で、びっくりはしましたが、トレードは、ある意味“つきもの”。逆に、光栄なことだと思っていたので、受け入れるのは早かった」と、意外にも淡々としていたが、西武にコーチ、スタッフとして在籍する赤田将吾ファーム打撃コーチ兼外野守備・走塁コーチ(西武→オリックス→日ハム)、星孝典ファーム育成コーチ(巨人→西武)、鬼崎裕司育成担当(ヤクルト→西武)に、改めて、自身にとっての“トレード”を振り返ってもらった。

赤田コーチ「最初は嫌でしたが、行ってよかったなと思います。オリックスに行って、向こうもすごく受け入れてくれたので、1週間ぐらいで『来てよかった』と思えました。オリックスでも日本ハムでも、ライオンズとは違う野球も知ることができましたし、いろんな人たちとも出会えました。球団によって、施設も、野球も、関わっている人も違うので、野球選手としての幅が、トレードによってずいぶんと広がりました。もちろん、人それぞれですが、僕は、経験しておいても損はないのかなと思います。

 当時、僕はそんなに試合に毎回出ているというわけではなかったので、『心機一転、気持ちを新たに』という意味では、同じ場所で『よし、今年こそは気持ちを新たに』というのは、やはり難しかった。モチベーションという意味でも、良いきっかけになったと思っています」

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星コーチ「トレードで生き延びました。僕の場合は金銭トレードだったので、ある意味、『買っていただいた』という形。なので、出場機会もいただきましたし、とにかく毎日が楽しくてしょうがなかった。本当にライオンズ様様です。100%来てよかったです。もちろん、ジャイアンツで応援してくれた方やファンの方には、ジャイアンツ時代にそんなに活躍できなかったことは申し訳ないとは思いますが、それでも、ライオンズに来て、大して活躍もできなかったですが、今でもこうしてコーチとして関われているのは、間違いなくトレードのおかげなので。

 本当に、良いターニングポイントだと思います。自分の中で、トレードで出たことで、『一度は死んだ身。失うものは何もない』と、吹っ切れ、自分らしく思い切りやれるようになった記憶があります。西武は、自分の色を出しやすいチームだと思うから、それを良い方に転がすのも、悪い方に転がすのも、自分の意識次第だと思います」

鬼崎育成担当「今にして思えば、良かったと思いますが、その当時の心境だと、『なんで? わー、嫌だなー。寂しいなぁ』という思いの方が強かったです。なんだか、『ヤクルトには必要ないから、他で頑張れ』と言われていると、勝手に捉えてしまっている自分がいました。あの時は、ヤクルトでも一軍にいましたし、交流戦もスタメンで使ってもらっていた中でのトレードで、行き先の西武は、中島(宏之/オリックス)さんがいて、片岡(治大/巨人二軍内野守備走塁コーチ)さんがいて、さんちゃん(中村剛也)がいて、という内野陣。僕は一塁は守らないので、『うわ〜』という思いは強かったです。でも、よくよく考えたら、トレードって、相手側からの『欲しい』という需要がなければ成立しない。のちのち、それが分かってからは、『必要としてくれたんだな』という嬉しさ、幸せだなという思いになりました。結果として、その後中島さんがメジャーに行って、いろいろチャンスをいただきましたし、たくさん勉強ができました。友達も増えて、『こういう練習法もあるんだ』と、知れたことも大きかったので、本当に良い財産になりました。

 西武は野球をやりやすい環境。僕の時は、クリ(栗山巧)が最初から『鬼ちゃん、飯食う〜?』とか誘ってくれたりして、すごく溶け込みやすいチームだと思います」

鬼崎育成担当(左)と星孝典二軍コーチ(右) ©上岡真里江

 コーチ、スタッフとして球団に残れていることもあるかもしれない。だが、このように、通達された瞬間こそ、それぞれの立場によって受け止め方に違いはあるが、結果として、全員がトレードを「良かった」と、ポジティヴに捉えていた。

 トレードという形ではないが、今季は、高木勇人投手もFAの人的補償として巨人から西武に入団し、「本当に生え抜きじゃないのか?」と、誰もが口にするほど、すっかりチームに馴染んでいる。榎田投手や前出のコーチ、スタッフもみな、新天地への移籍にあたり、一番の心配事は「人間関係」だったと話している。その意味では、すでに野球だけに集中できる環境に身を置けているということだろう。

 あとは、最終的に自分が納得できる結果を出すのみ。

 榎田投手、高木投手にとって、また、西武にとって、今回のこの縁が未来への財産となりますように。僭越ながら、心から祈って止まない。

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