何度も“最後”を覚悟してきたからこそ
そして、真価が問われるのは、今年だった。他球団のスコアラーから分析され、打者も球種や配球の偏りなどの情報をインプットした上で打席に立つ。それが、プロという世界。果たして“一発屋”で終わってしまうのか……。そんな不安を吹き飛ばし、“2年目の壁“を桑原は今、自力で突き破ろうとしている。「真っスラ」は健在で、交流戦開幕前まで16試合で防御率1.93と安定感が際立つ。
昨年フル回転し、心配される蓄積疲労にも「もう終わったことなんで、それは関係ないですよ」とサラリ。シーズンオフは「休んでいても、体が動かなくなる」と、例年通りのハードなメニューを課し、成績におごることなく、準備を整えた。
慢心は一切ない。活躍しても胸に宿るのは「昨年あれだけ投げても、今年ダメだったら僕はすぐにクビだと思う」という恐怖。プロで何度も“最後”を覚悟してきた男から、危機感という皮膚感覚はなかなか消えることはない。
マウンドを降りれば、後輩を食事に連れて行く姿が目立つ頼れる兄貴だ。岩崎優、石崎剛らブルペンで日々、時間をともにする後輩たちから「クワさん」と呼ばれる。「上の人に僕も連れて行ってもらったので、僕が下にやっていれば、下の子もいずれやってくれると思うのでね」。若手でもベテランでもない「中堅」らしい心意気で、世代のバトンをつないでいる。
だからこそ、26日の巨人戦に悔しさをにじませる。2点リードの8回2死一塁で岩崎を救援したものの、長野久義に2球目のスライダーを甲子園球場の左翼スタンドへ運ばれた。同点2ランは、先発で7回2失点と力投した後輩・小野泰己の白星の消滅を意味していた。「小野の勝ちを消して、優(岩崎)の走者も還してね……。(被弾は)今じゃなくていいやろと思ったよ」。
9回に中谷将大のサヨナラ打でチームは勝利した。その瞬間、ヒーローを囲む歓喜の輪ではなく、背番号64は真っ先に小野の元へ歩み寄り、声をかけていた。「ごめんな……」。クワさんが腕を振る理由が、また1つ増えた。
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