“○○女子”と聞くと、一見、ミーハー的な印象を受けるが、こと、本来は男性が趣味とする方が多い分野に興味を持つ女性に対して使うそれは、むしろ、逆な気がする。“野球女子”も、その代表の1つだろう。もちろん、女性である。好みのタイプの顔、いわゆる“イケメン”選手を贔屓に応援するのは、当然といえば当然。野球ファンになる大事な1つのきっかけでもあることは間違いない。

 ただ、それだけに止まっていない野球女子は、非常に多い。きっかけはそれぞれにして、一度興味を持つと、どんどんその選手、そのチーム、それに関わる全てのものに興味の視野を広げ、掘り下げていく。そうした中で蓄えていく情報量、知識、ネットワーク網の多さ、確かさといったら、ある意味、ちょっとした報道陣以上と言っても過言ではないだろう。

 かくいう筆者自身も、球場への行き帰りや、日常生活の中でも、電車内で漏れ聞こえてくる野球女子の会話から学ばせてもらうことは多い。その試合のプレーのこと、SNSのこと、プライベートの目撃情報など、内容は多岐にわたるが、中でも話題にのぼり、好感度を左右していると感じるのが、ファンサービス対応である。どんなにTV画面上で爽やかさ、好青年度をアピールしても、実際に生で相対するファンへの立ち居振る舞いで、ファン、特に女性ファンは、本質を見抜くものである。もちろん、疲労やタイミングなど、対応が難しい状況も多々あるだろうが、断り方1つに人間性が滲み出るというもの。その上で、実際に聞こえてくる、自分の目で見、肌で感じた選手に対する野球女子たちのリアルな声は、なんともシビアであり、的確だ。

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ファンを大切にするルーキー・伊藤翔

 前述の通り、ファン対応が人気の大事な要素だと考える時、真っ先に浮かんできたのが、ルーキーの伊藤翔投手だった。たまたまだが、先日、二軍のビジターゲームから戻ってきた伊藤投手がバスから寮に戻るところに遭遇した。歩いている道中、何組ものファンにサインや写真を頼まれていたが、全てに対して足を止め、笑顔で対応。自撮りで一緒に撮影したファンには、画像を確認しているところで「大丈夫でしたか?」と、気遣う場面も見られた。

 そうした、丁寧なファンサービスについて尋ねると、19歳投手からしっかりとした答えが返ってきた。

「去年プレーした徳島インディゴソックス(四国アイランドリーグplus)では、正直、そこまで応援してくれる人はいなかったので、『ファンの方を大切に』というのが、チームの大事な方針でもありました。プロに入っても、それだけは絶対に忘れてはいけないなと思って、今でも意識しています。今の僕にとっては、応援していただけるだけで、本当に嬉しいんです」

 こうした、優しい一面の裏に、「これ」と決めた意思を貫き、夢を実現させる信念の強さを併せ持つ。世代で言えば、今季プロ2年目の今井達也(16年ドラフト1位)らと同級生。高校時からプロ入りを希望していたが、高卒時はドラフトで指名されなかったため、1年後から指名対象となる独立リーグへ進んだ。そして見事、1年後の今年、しっかり夢を実現させた。だからと言って、そこがゴールではない。入団後も、自主トレから「プロでやりたかったんだ」という気持ちを猛アピール。A班キャンプメンバー入りを果たし、開幕一軍入りを勝ち取った。

四国IL徳島からドラフト3位で入団したルーキーの伊藤翔 ©上岡真里江

 今現在は二軍で調整中だが、開幕当初から中継ぎで起用され、5月16日に抹消されるまでに(途中、4月12日から21日まで二軍調整)8試合に登板して防御率3.00と貢献。内容を見ても、4月が4試合4 回2/3、防御率5.79なのに対し、5月は4試合7回1/3、防御率1.23と、着実なる進歩を見せ、評価を高めた。その証拠ともいえるのかもしれない。今回の二軍では、先発として調整を進めている。昨年、徳島でも先発として活躍していただけに、巡ってきた願ってもない大チャンスに、本人もモチベーションを高めているが、そこでも、昨年の経験が大きく生きているという。

 二軍のコーチングスタッフが、「直球でも、変化球でも、100%で投げるところと、80%で抜いて投げるところの使い分けが、1年目にしてできている」と絶賛する感覚は、「去年の経験から、自然とできている」と本人。さらに、「今年の初めから中継ぎ1本でやらせてもらったことも、本当にうまくマッチしているんです。去年までは、100の力で行きたい時に、急には出せない部分があったのですが、中継ぎを経験したことで、最初から100の力で投げるということを覚えることができました」。これまでの経験値を、しっかりと現在の自分の肥やしにできるバイタリティも、英気溢れる男子として、また大きな魅力といえよう。

 また、練習に取り組む姿勢も、「わからないことは、しっかりと聞いてくる」「投球の意図、感覚、考え方など、こちらが尋ねると、自分の考えがしっかりと返ってきて、会話になる」など、コーチ、スタッフからの評価は高い。今は二軍にいるが、「あいつは、ここに甘んじるつもりは一切ないというのが一目で伝わってくる」と、首脳陣。常に上を目指す、“超ポジ男”なのだ。