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エスコバーを見て考えた「恩返しって何だろう?」

文春野球コラム ペナントレース2018

「ふざけんなヒチョリ!」と怒鳴っていた

 面白かったのは2011年シーズンの交流戦だ。ヒチョリがベイスターズにFA移籍した最初の年。そこまで大した仕事は出来ていなかった。「3年連続最下位のチームに飛び込んで自分が変える」くらいの意気込みだったのに。もちろん僕はヤキモキしていた。何度もハマスタに出かけて「イニング間、外野手とキャッチボールする残念なヒチョリ」を眺めた。再会自体は幸福だけどヤキモキはする。

 そうしたら2011年5月23日、横浜戦1回戦、DeNA・森本稀哲はファイターズの先発左腕・武田勝からホームランをかっ飛ばしたのだ。4回裏だ。スライダーを一呼吸ためてレフトスタンドに叩き込んだ。移籍初ホームランだ。ファイターズ時代からそうだけど、ヒチョリはホームランでもすごいスピードでダイヤモンドを一周する。

 その瞬間だ。「ふざけんなヒチョリ!」と怒鳴っていた。何てことをしやがる。武田勝さんだぞ。お前、世話になった勝さんや日ハムに対してホームランか。ただ、これがねぇ、自分の右手を見るとグーになってるんだよ。えっ、グー? 僕は人生で初めてガッツポーズしながら打ったヤツを罵倒していたのだ。「ふざけんな」と言いながらガッツポーズ。竹中直人の昔のネタ「笑いながら怒る人」みたいな感じだ。

 俗に「恩返し弾」という言い方をする。儒教的な「恩」という概念と、カッキーンと飛んでいくホームランがなぜ合体しているのか謎だ。「古巣に対して恩返し」という物言いの元はたぶん相撲用語じゃないかと思う。考えたらヘンな話だ。「恩返し」どころか「恩知らず」くらいな行為だろう。何も武田勝からホームランを打たなくてもいい。ヒットで十分「恩返し」だ。何ならセンター返しの「恩返し」でよかったじゃないか。

ベネズエラ人に「例のやつ」をやられてしまった

 と、ハマスタの思い出を振り返っていたら今年の交流戦は1、2戦、東克樹&神里和毅、2人のルーキーにやられてしまった。ファイターズは交流戦初の負け越し確定。考えさせられたのはエスコバーだ。第2戦、リリーフに立ったエスコバーは1イニングを被安打1、三振1の無失点で切り抜け、勝利投手に輝いている。「古巣相手に恩返し」の勝利だ。あの例のやつだ。

2017年に半年ファイターズに所属したエスコバー 

 僕は胸に手を当ててよーく考えてみたんだけど、エスコバーのナイスピッチングは嬉しいのだ。例えば縁もゆかりもないパットンの快投とくらべて格段に嬉しい。そして「恩、返されちゃったなぁ〜」などと思うのだ。このムシのよさは一体何だろうと思った。

 エドウィン・ホセ・エスコバー・エルナンデスはベネズエラ出身の青年だ。儒教とも相撲とも関係がない。ファイターズに在籍したのはほんの数ヶ月だ。最初のシーズンの7月初旬に移籍が決まっている。そんな短期でも「古巣」だろうか。

 自分がわからない。一体、なぜ「何だよS子、打たせろよ!」など悪態つきながら、ベネズエラ人の頑張りにジーンと来てるのか。ベイスターズファンの皆さん、これからもエスコバーをたのみました。

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