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いつも心に新井さんを

「カープ女子」が2014年のユーキャン新語・流行語大賞に選ばれた際の盾 ©石田敦子

 私の父は広島生まれ広島育ちのカープファンだ。9年前に癌を患ったが幸いなことに完治してそれなりに元気に暮らしている。ただこの数年認知症がすすんできた。日常生活は母の介助でなんとかできるが、とにかく記憶がおぼつかない。

 先月、父母2人して孫の入学式を見るため上京してきた。夜にカープの試合を観ながら母が「お父さんはなあ、キャッチャーやっとったんよ」と言った。父が草野球をやっていたのは褪せた写真で知ってはいた。「お父さん、キャッチャーじゃったん?」と驚いた私の問いかけに「……おう」と答えた父。キャッチャーだった記憶があるのかないのか話は続かなかった。

 感情をあまり見せない父が大喜びしたカープの初優勝はまだ79歳のなかにあるのだろうか。優勝したのは覚えてる、と言う。いつの優勝だろう、全部いっしょくたの優勝になっているのかもしれない。

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 父から私へカープ魂は継がれたのだが、私は自分の子供には継げなかった。子供2人を小学生の頃球場へ連れて行ってはいたものの、中学に上がった時に長女はコーラス部へ長男は科学部へ入り、一緒に行ってくれなくなった。漫画描きのインドア魂は受け継がれたようだ。ああ、私はカープ女子カープ男子を育てられなかったなあ。

いつか子供たちにもカープ魂は受け継がれるのだろうか ©石田敦子

 しかし先日、母からLINEが来た。「あっちゃんのおかげで私もカープを応援するようになったよ」と。なんと私はカープばばを育てていたのだ。

 私がアニメーターになるため東京に出てからカープの話相手がいなくなって寂しそうな父と話ができるよう母はなるべく野球中継を一緒に観るようにしたそうだ。私も帰省するたびにマツダスタジアムに連れて行った。まったく野球に興味のなかった母は今では「大瀬良君しか勝ててないが」「カープ残塁ばっかりじゃ」と嘆くほどになった。

 この前のLINEには「新井さんやっぱり頼りになるわー」とあって「77歳も新井さんにはさん付けなんじゃなあ」と笑ってしまった。

 カープばばの心にも新井さんがいる。おかしくて、しみじみと嬉しい。カープじじの心にもいますように。皆さまに新井さんをインしたい。ぜひ心に新井さんを。

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