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最も成長させたのは2年夏の敗戦

 藤浪投手は2年生エースとして夏の大阪大会の決勝戦、東大阪大柏原戦の先発マウンドにあがりました。5点リードをもらいましたが7回に追い上げられ途中降板。チームはその後逆転負けを喫し甲子園への切符を逃しました。

「実は負けた後、1週間練習に入らんでいいと西谷先生に言われたんです。練習に入っても怪我するような時化た顔をしていたんでしょうね(笑)」。西谷浩一監督から特に理由は言われなかったそうですが、表情や気持ちを汲み取り、適切な言葉をかけてくれる西谷監督はうまいんですと藤浪投手は笑います。

2年夏の敗戦があったからこそ春夏連覇を達成があった ©文藝春秋

センバツがお前の人生を変える

「2年生の冬、選抜出場校が発表される前に西谷先生に呼び出されたんです」

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 藤浪投手が中学時代所属していた大阪泉北ボーイズの会長と西谷監督が話をした内容だったそうです。

「西谷先生が会長に、藤浪は勝たれへんし持ってない、あいつと心中するつもりかって言われたそうなんです。それを西谷先生は俺は悔しかったって言ってくれて……自分は笑って聞いていましたけど嬉しかったですね」。大事なところで勝てないと会長に言われても、西谷監督は俺はそう思わないから見返してやろうと言葉をつづけたと言います。「センバツに出場できたら、その大会がお前の人生を変える」。西谷監督のこの言葉に藤浪投手も奮起しました。

 そして迎えた選抜高校野球大会。初戦で大谷翔平要する花巻東を倒すと続く九州学院も倒し迎えた準々決勝浦和学院戦。先発・澤田圭佑(現・オリックスバファローズ)の後を受けて1点ビハインドで6回からマウンドにあがりました。7回には3連打を浴びるもその後三者連続三振。9回表に大阪桐蔭は逆転し、その裏2安打されながらもきっちりおさえました。「まさに粘り勝てました」。懐かしそうに語る表情が高校時代の充実さを物語っていました。

「同じことをするなら野球の役に立つことを!」という西谷監督の指導のもと、バランスをとるのにいいと聞けば食事の際は左で箸を使うなど常に野球への意識を持って普段の生活も送っていたという藤浪投手。今シーズン長い2軍生活を送っている中でも試行錯誤しながら野球と向き合っていたと思います。

 高校時代、春夏連覇を達成するまでに、沢山悔しい思いをし、苦しい試合も経験しました。練習に入れない時期もありました。かつての恩師からの厳しい言葉もありました。だからこそ春も夏も山の頂上に登ることができたのかもしれません。その過程で培った「粘り」が藤浪投手にはあります。まさに昨日(6月15日)の楽天戦では、3回に1死満塁のピンチで島内選手を併殺打に仕留めるなど粘投。試合後藤浪投手は「ランナーを出してもなんとか“粘り”の投球をすることができました」と振り返りました。今年初めてのお立ち台でも何度も出てきた「粘り」という言葉。これから幾度となく訪れるであろう困難も藤浪投手はこの「粘り」で乗り切れるはずです。

 本当に良かった。本当におめでとう! 彼にとって3度目の日本一への山登りが再び始まりました。

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