『秋葉断層』佐々木 譲(文藝春秋)

時間が街と人にもたらす“断層”

 27年前に起きた轢き逃げ事案を再捜査せよ――警察小説の巨匠、佐々木譲さんの最新刊は、未解決事件を専門に扱う警視庁捜査一課〈特命捜査対策室〉に属する水戸部刑事を主人公としたシリーズの第3作。『地層捜査』、『代官山コールドケース』に続くなんと11年ぶりの新作だ。

 電気街・秋葉原で地元電器店の常務が亡くなった轢き逃げ事案に27年の時を経て殺人の可能性が急浮上。地元警察署との共同捜査が始まる。

 四谷荒木町、代官山と都内のある街を舞台に未解決事件の謎を追う本シリーズ。連載開始前には都内各所で取材代わりの街歩きを敢行、舞台となる土地を選定した。

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「このシリーズでは、あまり書かれていない場所の、あまり書かれていない物語を書こうと思っています。未解決事件を扱うことで時間の幅を長く取る。それによってその場所の物語を引っ張り出してみようというコンセプトです。

 実はこれまでの2作の舞台はどちらも高低差のある土地なんです。土地の高低はいろんなもののあわいになる。一番わかりやすいのがそこに住む人々の階層差。ほんのわずかな差であっても、それだけで物語を生むんです。

 今回秋葉原にしようと決めたのは、神田川沿いを歩いていて区の清掃事務所を目にしたとき。その瞬間に、自分の記憶の中にあったこの街の古い姿と現在が結びついたんです。やっちゃ場(青果市場)や廃品回収場があった頃と今がつながる景色を見つけたように思って、これは書けるぞと」

 

 捜査の進展とともに街とそこで生活を営んできた人々の歴史が克明に立ち現れてゆく。水戸部の目を通してそれを見つめられるのが本作の魅力だ。

「水戸部は東京ではなく仙台出身の刑事。地方出身者だからこそ見える東京の姿というものがあるんじゃないかなと思っています。何に対してもフラットでニュートラルな視点を持った青年だからこそ、感情移入しながら読んでいただけるのではないでしょうか」

 ハードボイルド小説、時代小説、そして歴史改変ものまで多くのジャンルを手掛けている佐々木さんが警察小説にかける思いとは。

「私は社会や時代を書きたい気持ちが強いタイプの作家です。そして社会や時代の歪みというのは、まず犯罪に現れてくる。警察小説なら、犯罪を通して時代と場所、そして人間をよく書ける。そう思って警察小説を書いているんです。

 東京にはまだまだ語られていない場所があるので、これからもこのシリーズで街と人を書いていきたいですね」

 

佐々木譲(ささき・じょう)

1950年北海道生まれ。79年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。2010年に『廃墟に乞う』で直木賞受賞。16年に日本ミステリー文学大賞を受賞。

秋葉断層

秋葉断層

佐々木 譲

文藝春秋

2024年11月25日 発売