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ついに明かされる、香君の真実

 香君の「心」と「能力」。それぞれを有するふたりが出会ったとき、時は満ちた。神話に閉じ込められていた初代の香君もついに幻影から解き放たれる。そこに見えるのは、迷い悩み、もがきながらも、人々を救おうとした異郷の女性。さらに人災が引き起こしたオアレ稲の災禍が、伝承の奥にある神郷オアレマヅラへの通い路を開く。

 アイシャとオリエを中心に、オアレ稲の災禍に立ち向かうために多くの力が連携していく。オリエを支え続けて来たマシュウ。神郷を探し求めた求道者ユーマ。ひそかに他の穀物とオアレ稲の共存を模索してきたユギノ山荘のタクたち。昆虫の生態を研究しているアリキ師。各地の様子をつぶさに観察するミジマら香使たち……。災禍を打ち破るのは、人域を越えた神の力ではない。人々が蓄えてきた知識や経験、それぞれの特性を発揮するネットワークの力だ。そして連携の力は、横に広がるだけではない。かつて初代の香君が肥料に〈絶対の下限〉を定めた意味や伝承の真実など、後世の幸せを切ないほどに願う心と英知が遥かな過去からももたらされる。こうして人々が紡ぎ続けた力は、堅牢な帝国中枢をも動かす、清新な再生の風となるのだ。

 

 ユーマは語る。「多分、彼の地では何かが終わりつつあり、それ故に、こちらとの通い路が開くたびに、女児をこちらに送りだしたのではないかと思うのです。――命脈を繋ぐために」。――美しき永遠の園を彷彿とさせる神郷にも変化の刻は訪れた。この世のすべてのものはいつか滅びの時を迎えるのだろう。だが、命はしなやかに変容する。初代の香君は子供を残すことなく亡くなったが、今、神郷の血脈を継ぎながら、この地の命と交わって芽吹いた、アイシャと弟ミルチャ、そしてマシュウがいる。新たな命たちは、逞しく根差し、力強さを増していくだろう。

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 神郷からもたらされた香君の能力は、母から娘へと色濃く受け継がれる。「香君」でありながら、人として歩いていくアイシャに、どんな未来が待つかは分からない。アイシャが娘を持たなければ、そのたぐいまれな能力は途絶えるのだろう。けれど彼女が光を失うことはない。「香君」とは、生きとし生けるものたちが精一杯に生きようとする声を聞き取る者のこと。そして彼女が受け止めた声は、人々に手渡され、豊かな英知と愛情によって、未来へと繋いでいけるものだから。

 ノルウェーの永久凍土の地下には、最大四五〇万種の種子を保存可能とされる「地球最後の日のための貯蔵庫」がある。人類が災厄に陥るなど不慮の事態に備えて、恒久的にあらゆる植物の遺伝子情報を保護するために。上橋さんが描くファンタジーは、現在を生きる私たちひとりひとりの胸の内も照らし出す。あなたの正道はどこにあるのかと――青い光のような青香草の香りで導いている。


撮影:深野未季

香君1 西から来た少女 (文春文庫 う 38-2)

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上橋 菜穂子

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香君2 西から来た少女 (文春文庫 う 38-3)

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上橋 菜穂子

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香君3 遥かな道 (文春文庫 う 38-4)

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香君4 遥かな道 (文春文庫 う 38-5)

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