いよいよ今年も戦いが始まる。第101回東京箱根間往復大学駅伝競走――通称・箱根駅伝だ。

 中継を担うのは、日本テレビ。以前は「不可能」とさえ言われた箱根の山での中継、レースを十二分に伝えるための事前取材……テレビの向こうで待つ視聴者に向け、1000人ものスタッフが毎年動員されるという。

 1998年の日本テレビ入社以来、野球、プロレス、サッカー、ゴルフ、バスケットボール、バレーボール、ラグビー、NFL、MotoGP、マラソンなど、さまざまなスポーツ中継に携わってきた日本テレビアナウンサー・町田浩徳さんは、多くの歴史的瞬間を目撃してきたなかでも、「箱根駅伝」はやはり特別だという。

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 「箱根駅伝」の裏側で進行するテレビマンたちの戦いを、町田アナウンサーに聞いた。(全2回の1回目 初出:2024年11月16日)

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あまりにリアルで「ノンフィクションなんじゃないか?」

――池井戸潤さんの最新長編『俺たちの箱根駅伝』を第101回大会の予選会直後にお読みいただいたと聞きました。

町田 はい。来年に向けた予選会を経てからのほうがいいだろうと思って、そこから読みはじめたんです。手に取る前は上下巻を読めるのかちょっとひるんだんですが、選手の足音が聴こえてくるような冒頭の予選会の描写から一気に引き込まれていきました。上巻は言葉のひとつひとつが心に沁みて、自分のことと重ね合わせて考えながら何度も読み返しましたし、躍動感にあふれた下巻はもう一気に読み終えてしまいました。

 小説の中で、自然に箱根駅伝を解説してくれている部分も絶妙です。ストーリーの中に「レースってこういうものだよ」「中継ってこんなふうに行われているんだよ」と、しっかりガイドする形で説明が入っているので、一冊読み終わった時にはこの大会全体のことが分かります。どんな読者の方でも、次に箱根駅伝を見るときの目が変わってくるでしょうね。

 

 実際、箱根駅伝や中継がどのようにして成り立っているかを説明している部分は、特に放送当日を迎えるまでの中継局(小説内では「大日テレビ」)のディレクターやアナウンサーをはじめとするスタッフや関係者の心の機微、細かな数字も含めてあまりにリアルで、「これはフィクションだと聞いていたけれど、ノンフィクションなんじゃないか? でも登場人物の名前は違うよなぁ」と混乱してしまったくらいです(笑)。

 おそらく、私たちアナウンサーの知らないところで、著者の池井戸さんが日本テレビの制作(スポーツ局)側と連絡を取り合いながら、長い期間、取材を続けてようやく完成した作品なんだろうと思っていたんですが、実在のモデルに寄せて書かれたわけではなく、創作の部分が大きいと聞いて、改めて言葉にならないほどびっくりしています。