――中には悪質なものもあった?
そうですね。実際に話せばわかってくれる人もいるけども、一方でいくら話してもわかってくれない人もやっぱりいる。ひどい人になると「税金泥棒」というところから始まって「クマを殺すなら、お前が死ね!」とかね。朝から晩まで、ずっと30分以上も怒鳴りまくっている人とかもいる。これはもうはっきり言って業務妨害です。
「ガチャン」発言の真意とは
――佐竹知事は、そういう悪質なクレーム電話に対しては「ガチャン」で対応すると発言されて、話題になりました。この発言の真意はどこにあったのでしょうか。
まず相手が乱暴でなく、お名前も名乗られたうえで、ご意見を言いたいということであれば、これはちゃんと話を聞きます。問題は名前も名乗らず最初から乱暴な態度でずっと怒鳴りまくっているような人たち。これにずっと対応しているとまったく仕事になりません。私はこれは“公務員バッシング”だろうと思っているんです。やっぱり知事として職員を守るというか、理不尽なバッシングに晒されたままにしてはいけないという思いがある。私があえて強い表現をすることで、職員が毅然とした対応を取りやすくなる。
それがまあ「ガチャン」という表現になったわけです。
「彼らもまた被害者だ」
「でもね……」と、ここで少し佐竹知事のトーンが変わった。
「30年前はね、こういう人たちはいなかった。この頃、増えたんだな」
そして佐竹知事は抗議電話をしてくる人たちの“背景”へと思いを馳せる。
「私はこういうクレーム電話は、クマへの愛情というよりは、その人が日頃から抱える鬱憤とか、ストレスとか、そういうものから出ているような気がする。そのストレスのはけ口を求めていて、今回みたいなチャンスがあれば、それを公務員にぶつけてくる。
ただね、彼らが完全に悪いとは言えないんだ。こういう方々も、今の世相のある意味、被害者だ。それだけ不満を抱えた人がたくさんいるわけで、今の世の中を表している象徴と言えるかもしれません」
何か痛ましいものをまるで眼前に見ているような知事の表情が印象的だった。
(佐竹知事インタビュー〈後編〉に続く)
ライター・編集者
1975年生まれ。東京大学文学部卒。1998年文藝春秋入社。『Sports Graphic Number』『文藝春秋』『週刊文春』編集部などを経て、2019年フリーに。さらに勢いあまって札幌に移住。著書に『ペットロス いつか来る「その日」のために』(文春新書)がある。