先生は『俺の力でそのでかい借金返させてみせる』と言って、債権者会議を一手に仕切ってくれた。女房子供を箱根の別荘に隠してくれて、俺が何とかいきて行けるようにしてくれたんだからありがたいことだよ。その先生も、“バブルの最後の大物”と呼ばれた実業家のトラブルに巻き込まれて、ずいぶん苦労したようだけどね」
八方塞がりになった小林は、東京・品川の旧ホテルパシフィックに身を潜めた
八方塞がりで身動きが取れなくなった時期に、小林が身を潜めていたのは東京・品川の旧ホテルパシフィックである。債権者のひとりが、次の仕事が始まるまで潜伏するための部屋を用意してくれた。
「『芸は身を助ける』というけど、この時ほど俺に芸があってよかったと思ったことはない。先方にしてみれば、俺を見張るためにやったことかもしれないが、おかげでじっくり人生を見つめ直す時間ができたんだ。
散々な目には遭ったが、もし自分がサラリーマンだったら、果たしてあそこまで情熱を持っていろんなことができただろうかと考えた。裕ちゃんは『俳優は男子一生の仕事にあらず』と言っていたが、ひとつの職業に留まらざるを得ない人たちからすれば、俺がやってきたことはある意味では幸せなことだったのかもしれない。そういう人たちの憂さを晴らすために、俺たちは夢を託されたんじゃないかな。
何日も外に出ることができず、誰とも会わずに過ごす日々が辛くなかったと言えば嘘になる。たまたま同じホテルに(高倉)健さんが滞在していたんだ。優雅に過ごす健さんに比べて、俺は借金だらけの侘しい身の上。眠れない夜に部屋の窓から品川駅を見て、『あの線路を歩けば死ぬんだろうな』なんて弱気なことを考えたよ」
手のひらを返すようにして離れていった人々を、恨んでいないワケ
スターとして自分をもてはやした人々が手のひらを返すようにして離れていき、信じていた人からの裏切りにも遭った。だが、小林は誰のことも恨んではいないという。
「誰かのことを恨めば恨み切れないくらいのこともあったけど、その人たちにだって事情があったんだろうからね。千三つの世界で誰が裏切ったとか、金をぽっぽされたと言ってもしょうがないよ」
当時、妻の青山は小林にこう言った。
「お願いだから、金輪際、事業はやめてちょうだい。あなたには俳優として、歌手としての仕事があるわ。それに徹したらきっと道が開けるでしょう」
小林は黙ってうなずくしかなかった。
「財布に1000円札1枚も残らないようなどん底の生活を味わい、女房には本当に苦労をかけた。文句ひとつ言わずについて来てくれた彼女には感謝しかないよ」
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