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「被検者」から「患者」へ

 そこでさらに次の段階の検査に進むことになった。膀胱鏡検査だ。陰茎の先から管状の内視鏡を挿入し、尿道と膀胱の内部を観察する。これは痛そうだ。筆者はこの検査が恐かった。過去にこの検査を受けた知人が、あまりの痛さに耐えかねて、医師から膀胱鏡を奪って自分の手で引き抜いた――と話していたのだ。

 しかし、この検査に伴う痛みに関しては、いまは心配不要だ。たしかに、少し前までは「硬性鏡」という硬い棒状のカメラを使っていたので、被検者は耐えがたい苦痛を強いられたが、いまは「軟性鏡」というフレキシブルなカメラが普及し、その苦痛は劇的に低減されている。筆者は事前に刷り込まれていた恐怖心が強かっただけに、実際の検査は拍子抜けするくらいにラクだった。胃カメラや大腸内視鏡検査に鎮静剤を使う「無痛検査」があるが、軟性鏡による膀胱鏡検査はまさに無痛検査に匹敵する。事前に医療機関のホームページなどで軟性鏡を導入しているかどうかを確認してから受診するといいだろう。

抗がん剤を点滴(筆者撮影)

(3)組織検査は「ターゲット生検」で

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 各種検査で前立腺がんの疑いが濃くなると、最後の検査として生検、つまり前立腺に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で見てがんの有無を調べることになる。従来は肛門から専用の器具を挿入し、直腸越しに針を刺して組織を採取していたが、近年は「ターゲット生検」という検査法の導入が進んでいる。

 従来の方法は前立腺の十数カ所に針を刺して、その中の1本でもがん組織を捉えていたら「前立腺がん」の確定診断が下りるという流れだった。しかしこれは、がんを確実に捉えることを約束するものではない。

長田氏の新刊『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』 (文春新書)

 そこで、MRIで写した「がんと思われる部位」の画像を3次元処理して、そこを目標にして針を刺すターゲット生検の臨床導入が進んでいる。この検査は直腸越しではなく、会陰部(陰嚢と肛門のあいだ)から直接針を刺す。麻酔をしているので痛みはない。被検者は医師と同じモニターを見ているので、針が確実に目標の組織を捉える過程を見ることができる。

 筆者はこれらの検査を経て、前立腺がんのステージ1〜2a、つまり早期の前立腺がんという診断を得た。その瞬間、筆者の立場は「被検者」から「患者」に変わった。

(監修/東海大学医学部腎泌尿器科学領域主任教授・小路直医師)

※長田昭二氏の本記事全文「前立腺がん 余命半年だから伝えたい10の教訓
」は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。全文においては、性機能や体形の変化、副作用の内実、めまい発作の対策、医師選びの重要性などについて語られています。

 

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第4回「“がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…『転院』『治験』を受け入れるべきなのか
第5回「抗がん剤は『演奏会が終るまで待ってほしい』 全身の骨に多発転移しても担当医に懇願した理由
第6回「ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル
第7回「恐い。吐き気は嫌だ……いよいよ始まった抗がん剤の『想定外の驚き』
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第13回「『体が鉛のように重くなる』がん患者の“だるさ”は、なぜ他人に伝わらないか?

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特別編「前立腺がん 余命半年だから伝えたい10の教訓