「この部署では、殺人的なスケジュールが常態化しています」
そう語るのは、2023年にニコンに入社した元社員のA氏だ。A氏は長時間労働や上司からのパワハラによってうつ病を患い、翌年、退職した。
一眼レフカメラで一世を風靡し、今や日本を代表する大手精密機器メーカー・ニコン。世界のデジタルカメラの市場シェアでは、キヤノン、ソニーに次ぐ3位につけている。
そのニコンで、“異常事態”が起こっている。
「今日も明日も明後日も、徹夜でやるしかない」
カメラメーカーとして知られる同社だが、全体の売り上げに対するカメラ関連事業の比率は、実は4割程度に過ぎない。
「デジカメ市場はこの15年右肩下がりで、今後さらなる縮小が予想される。他の主力事業として、半導体の製造に不可欠な『露光装置』と呼ばれる装置がありますが、この分野は競合が9割以上のシェアを占めており、ニコンは苦戦を強いられています」(経済紙記者)
そこで2019年、新たな事業の柱を生むために「次世代プロジェクト本部」という部署が立ち上がった。ニコン最大の開発拠点・埼玉熊谷を拠点に、エンジニアら150~200名ほどが働く。A氏もこの部署に属していた。異変はここで起こった。
入社して数カ月が経った2023年9月、A氏は課長から呼び出され、こう告げられた。
「次の3カ月で、新しいレーザー加工装置(金属をレーザーで削って加工する装置)を開発してくれ」