今の告知はああいう感じ
直子 その後、家族が病院に呼ばれ、医師から説明を受けました。連絡の電話があった時には、ほぼ間違いなくがんなんだな、とは思っていたんだけど……。
努 「家族って何だ」。家族同然の友人もいるから、彼らも呼んだんだ。その辺から既に戦闘的になってた。病院には迷惑をかけたと思うけどね、そこは僕流にやらせてもらった。
その時に病状の説明をしてくれたのが、その病院のエースのような若い元気な先生だった。彼はMLBのワールドシリーズの予想をするような快活さで明解なパフォーマンスをした(笑)。
直子 そこまでじゃなかった(笑)。感情を込めない、淡々とした口調だった。今の告知はああいう感じなんだね。
努 医者の悪口を言っているんじゃないんだ。
ちょっと前まで、がんの告知って大問題だっただろう。本人には知らせないとか、家族の誰に知らせるかとか、暗示的な表現を使うとかって。
今は、本人にもずばりだからね。「生存率は10から15%」とまではっきり言われたから。
直子 そうだった。
努 感心したんだよ。はっきり言われて。僕自身は全くショックを受けなかった。
以前のように告知されなかったら、もしかしたらとずっと疑心暗鬼になって、精神的にややこしかったと思う。
直子 あの時は、家族も友人も説明を聞いて、みんながっくりきちゃっていたよ。
努 なぜ、家族を集めるんだろうね。本人に告知して、本人に任せればいいのに。
その時の直がすごかったね。すっと立ち上がって、つかつかと僕のところに来て、「とにかく胆石のおかげでがんが発見できたんだから、これから治療に専念して下さい」って説教した。
直子 そうだったかな。
努 そのまま今度は主治医のところに行って、背筋を伸ばして、大きな声で「父は現役ですから、そのつもりで治療して下さい」って言ったんだよな。
直子 「必ず治して下さい、仕事に戻りますので」って。
努 直はどちらかというとおとなしいタイプだと思っていたんだ。でもみんながショックで項垂(うなだ)れているなかで、直だけがしゃきっとしてた。印象的だった。やるときゃやるもんだなって思った(笑)。
※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「食道がん体験報告 生存率15%からの生還」)。全文では、約100日に及ぶ入院生活、抗がん剤パクリタキセルの副作用、歌を使ったリハビリ、黒澤明の思い出などについても語られています。
【文藝春秋 目次】総力特集 トランプ帝国の逆襲 トランプ大統領の世界貿易戦争/山﨑努 食道がん体験報告/睡眠は最高のアンチエイジングⅢ
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