「値上げをされたら、東大にいられなくなる人も出てしまう」
東京大学には、裕福な家庭の学生が多いと感じてはいる。ただ学内の友人には、シングルマザーの家庭の学生や家族が生活保護を受けている学生、自分で学費を稼いでいる学生もいる。
「大学が思っているほど、10万円をぽんと払える人は多くない。値上げをされたら、東大にいられなくなる人も出てしまう」。そう心配し、大学に値上げを考え直してもらおうと、苦しい学生の声を載せたフリーペーパーを友人らと作り、学内外で配った。
やはり文系学部4年の男子学生も、値上げに反対していた。北関東出身で、1浪して入学した。もし受験生の時に値上げされていたら、同じ選択ができていた自信はない。「わざわざ学費の高い東大を選べば、両親に対して後ろめたさを感じたと思う」と言う。
妹も一人暮らしで私立大学に通っている。実家の母は「普段の夕食はレトルトカレーで十分」と言っていた。「自分たちを大学に行かせるために食費を削っているんだ」と申し訳なさを感じている。アルバイトは不定期で、体調を崩して働けない時期もあった。物価の高騰もあり、2、3年前と比べて、節約しても生活費は上がっていると感じる。
東京大学を目指す受験生の中にも、家庭の経済的な事情で、あきらめざるを得ない人もいるのではないか、と心配する。
「大学そのものが、お金がないと行けない場所になってしまう」
東京大学は9月、反対する学生や教職員の声もふまえ、25年度入学者から値上げするのは学部のみとすることを決めた。大学院については、修士課程は29年度から値上げし、博士課程は据え置くことにした。
男子学生は、今回の値上げで、イメージとしても実態としても、東京大学が「お金持ちしかいけない大学」になるのではと危機感を持っているという。東京大学が値上げすることで、ほかの大学が追随する可能性もある。「大学そのものが、お金がないと行けない場所になってしまう」と感じる。
値上げは授業料減免の対象者などの拡充とセットになったが、話は単純ではない。親の年収が一定程度あっても仕送りが少ない人はいるし、きょうだいが多い場合もある。実際に経済支援を行う時には、世帯年収での判断ではなく、一人ずつの状況をみてほしいと考えている。