2024年9月、2025年度の学部入学者から授業料を約11万円引き上げると発表した東京大学。なぜ東大は、20年ぶりとなる値上げに踏み切ったのか?

 ここでは、朝日新聞の取材班が、国立大学の実態を明らかにした『限界の国立大学——法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』(朝日新聞出版)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

東大の安田講堂 ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

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「東大生が全員、恵まれているわけではない」

 東大には世帯年収450万円未満の学生も14%いる。24年の5月中旬にあった東京大学の学園祭「五月祭」で値上げ反対を訴えた学生の中には、授業料免除を受けている女性もおり、「東大生が全員、恵まれているわけではない」と訴えた。

 女性によると、免除には成績などの要件があるため、「審査でいつ免除が打ち切られるかわからない不安がある」という。東京大学は値上げとセットで、授業料減免の対象を拡大する案を示していた。それでも女性は同じような要件が付けられることを心配し、「免除の枠を増やせば、値上げしてもいいという意見には反対」と憤った。

食費や交通費をできるだけ削りながら生活する東大生も

 他の東大生の声も紹介したい。文系学部4年の女子学生は西日本出身で、現在は大学の近くで一人暮らしをしている。東京大学を選んだ理由の1つは、都心にあって学費が安いからだったという。同じ都内の国立大学である一橋大学は、受験生だった4年前には、すでに授業料の値上げを発表していた。

 両親は共稼ぎだが、高校生の妹がいる。奨学金を受け取りたいが、所得制限にかかって対象外。もっと学びたいことがあり、大学院進学も考えている。だが、大学院の授業料も学部といっしょに値上げされれば、親にさらに負担をかけてしまう、と心配していた。

 今でも、食費や交通費をできるだけ削る生活を続けている。一日中図書館にいる日は、1食は弁当を持参し、1食はコンビニのおにぎり1つにしている。それでも、研究のために図書館にない海外の本を取り寄せると、円安の影響もあって、月2万~3万円はかかってしまうという。