2024年9月、2025年度の学部入学者から授業料を約11万円引き上げると発表した東京大学。なぜ東大は、20年ぶりとなる値上げに踏み切ったのか?
ここでは、朝日新聞の取材班が、国立大学の実態を明らかにした『限界の国立大学——法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』(朝日新聞出版)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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東京大学が20年据え置いてきた授業料を値上げ
東京大学は24年5月、05年度から20年据え置いてきた授業料を値上げする考えを、各学部長・大学院研究科長らに説明した。
国立大学は、文科省が定める「標準額」(05年度から53万5800円)の1.2倍を上限に、授業料を自分たちで決めることができる。東京大学は25年度に入学する学生から、学部も大学院もすべて、この上限にあたる64万2960円に引き上げようと考えた。
学部がある全国82の国立大学の中で、値上げの方針を示したのは東京大学が初めてではない。18年までは、全国の国立大学は、どこでも学部授業料は標準額だったが、19年度に東京工業大学と東京藝術大学が約2割の値上げに踏み切った。その後に、東京医科歯科大学や一橋大学、千葉大学、東京農工大学も2割値上げしている。
「教育環境の国際化やデジタル化」が理由と説明
それぞれ、教育・研究の国際化などを理由としている。本来そうした予算は運営費交付金でまかないたいところだが、いっこうに増えない状況を受け、批判を覚悟で値上げに打って出たのだ。
東京大学では、藤井輝夫総長が24年6月、学生に対してオンラインで授業料改定について説明する「総長対話」を実施した。値上げの理由に挙げたのは、「教育環境の国際化やデジタル化」だった。
藤井総長は、取り組みたいと考えているが、光熱費などの高騰で進めることができないと説明し、「教育環境の改善に使える予算は、運営費交付金と授業料だ。運営費交付金が抑制されているうえに、光熱費や物価の高騰で支出が増えるなか、実現させるには授業料を上げるしかない」と述べ、理解を求めた。