完璧主義だったモネなら廃棄しかねないような状態だからこそ、モネの息遣いが聞こえてくるようで、貴重な一点だと思いました。

©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

 印象に残った章は、2章と4章です。2章「水と花々の装飾」では、アイリスやキスゲ、藤やアガパンサスなど、モネが暮らしたジヴェルニーの「水の庭」に実際に生息していた植物の絵が集められていて、モネの庭や植物への愛を感じました。

 また4章「交響する色彩」では、もはやタッチが荒くほどけすぎて、なにが描かれているのか分からない晩年の絵が並んでいます。晩年のモネが、人生の悲喜こもごもを経験し、視力や体力の低下に悩まされるなかで、それでも絵筆を握って描きつづけた、芸術家としての執念のようなものを感じました。

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 マティスやデ・クーニングも同じですが、老年期にどんどん自由になって狂い咲きのような変化を果たしたものが、個人的に好きなんですよね。

©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

じつは、10代の頃はあまり好きではなかった

――今回の展覧会の見どころの一つに、楕円形の部屋の壁面に〈睡蓮〉がずらりと並んでいる3章「大装飾画への道」があります。そこをご覧になっての感想をお聞かせください。

 あれ、ここは外なの? と一歩足を踏み入れたときに勘違いするくらい、自然光に近い照明になっていて、気持ちがスッとする展示室になっていると思いました。まるで〈睡蓮〉のなかに閉じ込められた、花の香りのする風が吹き抜けてきそうでした。

 また、楕円形になった壁は、オランジュリー美術館の有名な〈睡蓮〉の「大装飾画」の展示室に迷いこんだようにも感じますね。

©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

――モネの〈睡蓮〉を今回ご覧になって、新たな発見はございましたか?

 とにかくいろんな〈睡蓮〉があるんだな、というのがはじめの率直な感想でしょうか(笑)。あとは、自分自身の変化に気がつかされました。

 私は10代の頃、「モネの〈睡蓮〉は、みんなが好きなんだから私は好きじゃない」みたいな天邪鬼だったんです(笑)。でも今は30代後半にさしかかって、受けとる印象が変わったように思います。