「富裕層と言われると違和感」

 マンション値上がりで築いた資産を海外に持ち出せた人は幸運だ。沖縄県で高級民泊3棟を経営している翁さん(30代、男性、仮名)はその典型だ。

「親が20年前に買ったセカンドハウスを売ったら、東京のタワマンが2部屋買えるぐらいの金額になってしまいまして。そのタワマンも値上がりしたので、一つ売って民泊経営を始めた次第です。自分が富裕層と言われると違和感がありますね。北京では安い時に不動産を買っていた人なんてごろごろいます。みんな普通の人ですよ」

 北京中心部のマンションならば、どんなに古くても1億円以上はざら。一人っ子政策の影響で子どもは一人の家庭が多いので、親世代、祖父母世代の不動産を相続するだけで、普通の市民が立派な富裕層になってしまう。

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『ピークアウトする中国』(梶谷懐・高口康太、文春新書)

アフリカで同じ夢を見ようと…

 だが今や、このラッキーなチャイニーズドリームは存在しないのではないか。すでに価格は上がりきっている。今さらマンションを購入しても、もうこれまでのような値上がりはしないと諦めのムードが広がっている。それどころか今回の不動産危機で、所有している物件の価格が下がるというリスクまで生まれてしまった。筆者の友人である、企業家のロビン・ウーは講演会で「若者よ、アフリカでマンションを買え」と檄を飛ばしていた。

 次はアフリカで同じ夢を見ようというのだ。どこまでいっても不動産に囚われているのがおかしかったが、10年20年続いてきた成功パターンを忘れるのも難しいのだろう。

 今回の不動産危機によって、若者にとっては親世代のような資産形成の道、チャイニーズドリームが断たれた。そして、それはリタイアし老後を迎えた世代にとっては最後の人生設計が狂ったことを意味している。中国も核家族化が進み、老後は子どもの手を借りずに過ごす人が増えた。60代以上では66%が子どもと別居している。不動産の価値が下がれば老後の人生計画の支えを失う。

 日本のタワマンを購入するなど、不動産資産を海外に持ち出せた人は幸せだ。逃げ遅れた人々の道はまだ見えていない。夢のような高成長の時代は終わったのだ。となれば、「大きくは成長もしないが、それなりに安定している普通の国……まさしく日本のような国になるべき」と発想を変えるのが当然のようにも思う。だが、長らく続いたバブルに慣れ親しんだ中国人が急に思考を変えることは難しい。

「黄金時代が終わり、歴史のゴミ時間が始まった。もうダメだ」と嘆くか、あるいは海外で別の夢を追うか。現実を受け入れるのは難しい。

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