長らく続いた不動産バブルが崩壊し、今世紀最大の分岐点を迎えた中国経済。不動産さえ買えば誰もが富裕層になれた、“チャイニーズドリーム”はもはや存在しない。世界を翻弄する大国はどこに向かうのか。
ここでは、梶谷懐氏、高口康太氏による新刊『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)を一部抜粋、加筆編集して公開する。(全2回の1回目/後編を読む)
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「歴史のゴミ時間」……昨年夏に中国で流行したスラングだ。もう、なにもかもうまくいかない、がんばっても成果のえられないどうしようもない時代が歴史上、何度も出現している。中国は今、まさにその状態なのだ、という愚痴だ。
論理的な議論とは言いがたいが、そのぼやきは理解できなくもない。というのも、20世紀末から2020年まで、この20年間は平々凡々な人間であっても、簡単に大金を手に入れられる黄金時代だったからだ。
エリート研究者よりも豊かな人
「アメリカンドリームをつかみたい。北京の実家を売り払って、男は単身米国へとわたった。それから数十年もの間、必死に働いて男は成功者となった。老後は故郷でのんびり暮らそうと男は北京へと戻った。しかし、米国で稼いだ全財産を注ぎ込んでも実家を買い戻す金には足りなかったのであった……」
これは中国では有名なジョークだというが、現実も似たようなものらしい。中国政府は2011年から、海外の研究者を引き抜くプロジェクト、千人計画を行っていた。外国人の研究者も招聘しているが、主な狙いは中国人研究者の奪還だ。中国人のトップ研究者の多くは留学し、海外の大学、研究機関でポストを得ている。手厚い研究費や住宅購入補助金などの好待遇で彼らを呼び戻そうというわけだ。