彼女は芸能界で生きてきたタレント、しかもトップアイドルなのだから、マスコミが動くのは当然だが、あまりにも度が過ぎていたのではないか。

 筆者は当時25歳。ある新聞社の社会部記者だったが、「自分の行く末を、もう少しじっくり考えたい」と退社。学習塾で講師の仕事をしながら、お金がたまると文庫本を持って日本各地を旅していた。いわゆるフリーアルバイターである。

ぞっとした報道合戦

 岡田が自殺した日は九州の鹿児島にいた。宿泊先のホテルで見たテレビのワイドショーは「自殺の謎」「親友が語る真相」「失恋が原因」などとセンセーショナルに報じていた。「正気を失ったのではないか」と思えるほどすさまじい報道合戦。驚くというより、ぞっとした。

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ステージに立つ岡田有希子さん ©時事通信社

 この感覚は、豊田商事事件(1985年)の永野一男会長(1952-1985)が惨殺された現場で、テレビカメラマンが暴漢を制止することもなく殺人現場を撮影して、社会から厳しく批判されたときと似ている。

 岡田が自殺した1986年は、日本経済がバブル化の一途をたどりはじめた年である。浮遊する社会を反映するかのように、モノではなく「情報」が売れる時代になった。時代の空気が「重厚」「苦悩」から「軽み」「遊戯」へと変わっていく中で起きたのが岡田の自殺だった。

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

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