ケース(3)について、厚生年金の財政収支は、つぎのとおりだ。

 収支差(保険料収入、運用収入、国庫負担の合計である「収入合計」と、基礎年金拠出金と報酬比例年金の計である「支出合計」の差)は、2024年度の13.9兆円から継続的に悪化し、2035年度に、8.8兆円と10兆円を割り込む。

 そして、2080年度にマイナス3.9兆円と、マイナスに転じる。その後も、マイナス幅が拡大していく。2120年度における収支差は、マイナス20.4兆円だ。給付水準の調整は、比例年金では2026年度で終了するのだが、基礎年金では2057年度まで続く。

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 このため、厚生年金の所得代替率は、2024年度には61.2%であるものが、低下を続け、2030年度に59.9%と6割を下回り、2057年度からは50.4%となる。つまり、2024年度に比べて、82.4%の水準に落ち込む。

老後のための要貯蓄額が約3500万円に

 所得代替率の2割近い削減は、老後生活に極めて大きな影響を与える。

 2024年におけるモデル年金額は月額23万483円だ(※)。この17.6%は4万565円。年間で48.7万円だ。

※日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」による。なお、本章の2で述べたように、「財政検証結果の概要」(給付水準の調整終了年度と最終的な所得代替率の見通し)には、「所得代替率に用いる年金額は、平成16年改正法附則第2条の規定に基づき前年度までの実質賃金上昇率をすべて反映したもの」と注記されており、具体的な数字として、「夫婦2人の基礎年金13.4万円と夫の厚生年金9.2万円」が示されている。この合計額は、22.6万円になる。

 だから、年間の不足額が、現状より48.7万円だけ増えることになる。30年間では、必要資金が約1460万円だけ膨らむ。それまで老後生活のための貯蓄が2000万円必要だと考えていたものが、3460万円必要ということになる。

 所得代替率がこのように低い水準に落ち込むのは、2057年度のことだ。だから、だいぶ遠い将来のことだと思われるかもしれない。しかし、就職氷河期の人々(団塊ジュニア世代)は、直接に影響を受ける。

 実際には、もっと早い時点で影響が生じる可能性が高い。なぜなら、将来時点でこのような事態が予測されれば、それをいつまでも放置してよいとは思えないからだ。

 これに対応するために、きわめて大きな制度改革が必要とされるだろう。例えば、支給開始年齢の引き上げが、避けられなくなるだろう。そうなれば、65歳からある時点までの年金を得られなくなる世代が出てくる。したがって、老後生活資金が、いま考えているより多く必要になる。